[コメント] ゴルフ狂の夢(1920/米)
ギャグの多様性と奔放な豊かさは確かにキートンのブレーンとなるギャグマンチームの勢いが実現させた結果であろう。ゆえに本作は粗い印象は否めないが現代に通ずるナンセンスの強度は突出して面白い。意外にも冒頭のゴルフシーンでキャディを務める黒人の登場にインパクトがあったが、これまでのサイレントコメディでなかなか目にかかることのなかった黒人に、キートンがどのような思い入れがあったか興味深いが知る由はない。チャップリンも同時期に『のらくら』(チャップリンのゴルフ狂時代)を発表しており、ゴルフは当時の裕福な娯楽のひとつであったようであるが、おそらく本作でもゴルフをモチーフとするのにさほどな意味はなかったであろう。しかしながらその時代のトレンドを盛り込むあたり、これもある種のモードであったのだろうし、そうした目配せについても時代を担う役どころを思わせて勝気である。本作はやはり囚人13号としてのキートンの闊達ぶりにハイライトがある。それにしてもアクションだけにとどまらず、絞首刑ヘビー級チャンピオンというネーミングや、格闘技観戦さながらの絞首刑エンタテイメント化というブラックなジョークはかなりのセンスである。さらにはそうしたコミックワールドの中でキートンがストーンフェイスであり続けるところがまた状況のおかしさを倍増させている。そして極めつけはジョー・ロバーツのジャイアントスイングとキートンのパンチングボールのスイングだ。ここに至ってはキートンのはちきれかたは尋常ではなく、チャップリンに見る大団円ギャグのホースで水ぶちかましを優に越えている。そしてそれを引きで捉える構図のあほらしさはファンタスティックなブレイク感を伴って、もはやオチなどどうでもいいほどの決定打であった。ストーリーの構成云々よりもネタの強度が噴出するこうしたある種壊れたコミックというのは奇跡的に近い存在感でしかない。それを成立させるキートンの上々ぶりは、まさにこの時期の順風ぶりを確認させる。
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