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[コメント] ジョゼと虎と魚たち(2003/日)

ここでも新井浩文は『青い春』(嘘) 2004年2月3日劇場鑑賞2月5日劇場再鑑賞
ねこすけ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







そういう訳で、静まり返った劇場で新井浩文の『青い春』ばりの髪型に笑いを堪えるのが大変でした。

妻夫木は一皮向けた、と言う印象。良い演技をしている。体目当てだけの普通の大学生が、恋愛の重みをひしひしと感じていく感じがした(違うって?)。池脇千鶴も、”清純派”のイメージを拭い去って裸を晒す。少々話題にもなったけど、作品を見れば彼女が脱ぐ事に何も違和感が無く思える。彼女もまた、既にアイドルと言う殻を脱していて、十分女優の道を歩んで居ると思う。

犬童監督は『金髪の草原』と、脚本担当の『大阪物語』(要するに池脇千鶴繋がり)しか見た事が無いのだけれど、かなり好印象。『金髪の草原』でも、どこかでシュールなのにリアルなファンタジーで中々良い印象を受けたけど、今回の作品では、その良さが全面的に溢れ出ている気がする。

予告編の段階で感じた「池脇千鶴の撮り方が『金髪の草原』と違って、かわいさを強調していない」と言う感じ。今までアイドル、と言うイメージしかなかった彼女を、表現が悪いけど、不細工に撮っている印象を受けた。つまり、彼女をアイドルとしてではなく、作品を「池脇千鶴=アイドル主演作」と言う物ではなく、完全に「作品」として撮った、と言う感じがした。

金髪の草原』ではアイドル臭さが残ってたけど、今回は女優臭さが溢れ出ている感じがする(いや、よく知らないけど)。犬童監督も、賭けに出たのではなく、今まで付き合ってきた経験から彼女を女優、として捉えようと思ったのだと思う。

ただ、妻夫木には演技の良さは感じても、俳優としての輝きはイマイチ感じなかったなぁ・・・。いや、俺が語れる物じゃないけど。

冒頭から始まる回想形式。良くあるタイプの恋愛ドラマだろうな、と思っていた。実際、身障者、と言う点を除けばどこにでもあるような話。誰かと別れて、新しい女を捜して、見つけて、ヤって、しばらくしたら別れて。

この手の恋愛って、リアルタイムで感じる恋愛の重さ(少なくとも俺から見れば)は軽く見える。そんな恋愛をしてきた主人公とジョゼとの束の間の恋愛。始めはナヨナヨした青年にしか見えなかった主人公が、ジョゼとの恋愛を通じて少しずつ重みを背負っていく姿に、脚本、映像の力を感じた。

詩的な映像と台詞で綴られる繊細な心理描写。カット(時に写真)を繋ぎ合わせ、点を線として見せているような美しさ。

夕暮れから夜に変わる時間帯を3カットで撮り分けた映像をバックにジョゼの「好きや。あんたも、あんたのする事も(以下略)」と言う台詞が被るシーンでは、思わず声を上げてしまった。その美しさに。

日常の中の非日常的な、しかし徹底的にリアリティに拘った美しく切ない、”よくある”ラブロマンス。忘れてしまうかもしれない。けど忘れられない。

ラスト、道端で妻夫木が泣き崩れた瞬間の切なさ。それが恋愛って物だと思う。俺が言えた物じゃないけど。

身障者がどうのこうの、と言うのは関係ないと思う。この作品は、確かにジョゼの半身不随、と言う設定も必要不可欠ではあるけど、それとは全く違う物を描いた繊細なラブロマンスであって、身障者、と言う設定はあくまで設定でしかなく、本質は「恋愛ってこんなもんやろ?」みたいな、どこにでもある話。だからリアル。それを描くからこそリアルに思えてくる。

繊細で、しかし切なく残酷で、だが限りなく美しくも、とてつもなく重いラブストーリー。

だから俺も忘れない。新井浩文さん。次はどんな髪型するんですか?(ぉぃ違うだろ

そういう訳で文句のつけようのない★5

少々の所は目を瞑れるけど、どうしても目を瞑れない箇所が一箇所。

それはジョゼのキスシーンだぁ!!いや、池脇千鶴がどーのこーのと言いたい訳じゃない。彼女は立派な女優なんだから。

いやね、それまで頻繁に他の女優のヌードやらキスシーンが出てきます。それはあくまで「妻夫木の今までの恋愛模様」を観客に伝える為の描写なので別に構わないのだけれども、ジョゼとのキスシーン。彼女はずっと家に篭っていたはずなのだから、彼女はもっとキスを戸惑いながら、不器用にするべきではないだろうか、と思う。

いつも強気な彼女が、心の奥底では弱気になっていて、それでも表面では強気に見せていよう、と言う気構えをもっと描き出して欲しかった。(俺の変な先入観かもしれないけど)身障者の人ってそんなイメージがある。表では強がっているけど、心の中は不安と孤独で一杯なんじゃないのか?って。まぁ別にそれは身障者に限った事じゃなくて、生きている人は皆そうやって日々を過ごしているんだろうけど。

だけど、映画の中で必死に強がっているジョゼの、そういった内側の不安を隠そうとする仕草をもっと表面的に描いて欲しかった。だからあのキスシーンだけは頂けない。

まぁ映画として良いから別に気にならないけど。

再鑑賞して、特に気付いた事もなく・・・一度で十分だった印象。久しぶりに見たりするときっと良いのだろうけど、間隔が早すぎた・・・恐らく半年に一回、忘れた頃にしみじみと見るのが良いんだろうなぁ。。。だってそういう映画だもん。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)sawa:38[*] ゆーこ and One thing[*]

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