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[コメント] 犯罪河岸(1947/仏)

クルーゾー3作目の長編映画監督作。挑発的な2作目『密告』(43年)で干されたのに懲りたのか、デビュー作のような洒脱なコメディ基調の演出に戻って全方位的に上手い塩梅にまとめた面白い作品だ。
ゑぎ

 私も、見たクルーゾーの中では一番好きかも知れない(クリスマスの映画だし)。ちょっと過剰なクサい演出も、コメディとしての図太さに上手く機能していると思う。

 原題(仏題)は「オルフェーヴル河岸」で地名の固有名詞(パリ警察の所在地)だが、英題は「ジェニー・ラムール」というもので、こちらは登場人物の人名だ。演じるのは、シュジー・ドレール。これで分かるように、彼女が主人公と云っていいと思うが、いや、見た人によって、そんなことはない、やっぱり、警部役のルイ・ジューヴェだろうとか、いやジェニーの夫モーリスを演じるベルナール・ブリエが動き回ってプロットを牽引しているだろうとか、いやいや、出番の尺はちょっと少ないが、モーリスの幼馴染のドラ−シモーヌ・ルナンこそが、裏回しをしているじゃないか、といったように意見が分かれると思われる。これも面白さの要因の一つだ。

 とは云え、歌手ジェニー−シュジ・ドレールの歌唱場面(あるいはセクシーな衣装のシーン)が無ければ、こんなに魅力的な映画にはなってなかっただろうということを考えると、私はやっぱり彼女が主演、と云うべきだと思う。単にエンターテイナーとして見せ場を沢山作っているだけにとどまらず、好色な映画関係者ブリニョン−シャルル・デュランを殺した殺人犯である彼女が、自宅では泣きながら後悔したりするけれども、唐突に能天気な笑顔になって舞台で唄っているシーンが何度も(2回ぐらいだったかも知れないが)挿入されるという大胆な演出の面白さも大きいと思う。

 あるいは、ジェニーの舞台や楽屋にジューヴェの警部が現れたシーンで、複数人のバイオリニストが物凄い速弾きの練習をしており、この音楽が焦燥感を高めるという演出を反復するのにもクスリとさせられる。他にも、モーリスがブリニョンを殺そうと拳銃を持って家に行くと、既にブリニョンは死体になっている、という場面に続けて、なぜか凄いモブの人波にもまれるモーリスのシーンがあるのも面白いが、ちょっとやり過ぎかも知れない。同様に、ジェニーに頼まれて、殺人現場に毛皮のマフラーを取りに行ったドラが、死体のブリニョンを蹴る、という演出もやり過ぎのイヤらしさを感じさせるが、このあたりもクルーゾーらしさだろう。

 あと、凝った演出として、ドアとドアベルを活用して意外な人物の到来を見せる場面の反復だとか、人物を前後に置いた奥行きへの意識、ジェニーとモーリスの部屋の窓から階下を見せる高低の意識(これも奥行きでもある)とか、ジューヴェ登場シーンの仰角構図の連打なんていう演出も目に留まる。さらに、ジューヴェがジェニー−ドレールの楽屋を訪ねた場面で、右手前にジューヴェ、左奥に黒い下着姿のドレールを映したショットは、完全なパンフォーカスで、これは書き留めておきたい。

(評価:★3)

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