コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 安珍と清姫(1960/日)

安珍は市川雷蔵、清姫は若尾文子。騎馬が野を走るロングショットから始まるが、これは清姫の狐退治の乗馬だという設定だ。若尾は矢を放ち、矢は道で休憩している僧侶安珍−雷蔵に刺さってしまう。
ゑぎ

 安珍は、清姫の父−見明凡太朗の屋敷で静養することになるが、すぐに若尾は雷蔵を誘惑しようとする。本作の若尾の着物は、ずっと胸元が開き気味に着付けられており、これは艶めかしいが、ちょっと作為的過ぎるとも思える衣装だ。真面目な雷蔵は、若尾をはねのける。怒る若尾。しかし、雷蔵も、温泉に入浴している際に若尾に云い寄られる場面では、遂に欲望に屈してしまう。こゝで、舞台的なイメージシーンを挿入する。桜の花びら。舞う二人。雷蔵が「死ぬよりほかに、道はありません」と云った途端に、笑う若尾。「卑しいただの男。私は勝った」と云う。こゝが前半のハイライトだ ろう。

 中盤以降、雷蔵安珍は、二度、道成寺への修行に出るのだが、若尾清姫のいる屋敷と道成寺との距離の描写、あるいは、その中間地点にあると思われる、滝や山小屋の位置関係などが、とてもいい加減に描かれている。ただし、このいい加減さが、この映画の幻想性(何とも現実的でない雰囲気)を、より盛り上げている面があることも確かだろう。特に、雷蔵が二回目に道成寺へ向かうシーンでは、一度目では描かれなかった、カルスト台地と、砂丘を通るのだ。それぞれ、秋吉台と鳥取砂丘でロケしたシーンだと思われる。原作の舞台は和歌山のはずなのだから、これには驚く。

 また、前半、雷蔵をあざ笑った若尾は改心し、逆に彼を恋い焦がれるようになる。雷蔵の後を追って、一人、緑の山道を追いかけるシーンが、何度もクロスカッティングで繋がれるが、歌詞入りの劇伴の多用で、荘厳なムードを醸成していて、これも見どころだ。中でも、終盤の道成寺へ向かう若尾のロングショットで、山に鳥を飛ばす演出は凄いと思った。ものすごく手間のかかったカットだろう。そして、彼女が日高川に飛び込むシーンから始まる唐突なファンタジーは、今見ると、プアな見せ方ではあるが、理屈を超えた怒涛の展開を、よく造型していると思う。

 あと、中盤の、山小屋に若尾が現れる場面では、雷蔵と揉み合い、キスする演出があり、多分事故なのだろうが、はっきりと、若尾の乳輪が見えるカットがある。これは、日本映画史上に残る、お宝映像と云っていいだろう。もっとも、このシーンの若尾のアップカットの妖艶さこそ素晴らしいと思う。

#備忘でその他の配役等を記述します。

・若尾清姫に惚れている豪族の青年は片山明彦。若尾の側近の女中に毛利菊枝。屋敷の下男では、花布辰男が目立つ。雷蔵安珍の仲間の僧に小堀阿吉雄小堀明男)。小堀が手を出す女中は毛利郁子

・雷蔵が道成寺へ行く途中の山中で出会う僧は荒木忍。道成寺を訪問する藤原家の姫は浦路洋子。寺の高僧で南部彰三

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。