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[コメント] 愛妻記(1959/日)

尾崎一雄の芳兵衛もので清水宏『もぐら横丁』は戦後、本作は戦前。このフシギちゃんの走りのようなキャラ、司葉子のようなウルトラ美人には無理な役処だが鼻詰まったような発声で頑張っていて愉しい。受けるフランキーは理想的な人物のいい造形。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







初対面からやたらフランキーの顔見て笑って近づきになり、帰ってきた彼を襖の影からバアと飛び出して脅かしたりする。恋愛とは違うものを異性に求める人なのだろう。他方でとても真面目で世知に長けた面が共存している。タイプライターを習いたいと話し、実家(断らずに結婚している)から調査が来るとしょ気ている。クールな白川由美との対照が効いている。

司が寝ている横で原稿書いて、夜中にインキが切れて水で薄めているフランキー(西鶴の現代語訳は志賀直哉に貰った仕事の由)。暗いランプと外は激しい雨。こんな時間帯がとてもいい。着るものがなくて一日中寝ている司の件もいい。同郷人の滝田裕介と初めての浅草で映画みて、そのためにフランキーは質屋から一番いい着物を一日だけ出して着せて、司は戻ってから、着物を質屋に戻すまでフランキーと散歩して、司がフランキーの分まで綿飴を喰ってしまう(綿飴の器械は現代と同じものがある)。ラストは滝田との仲を疑うフランキーに、貴方の子供が出来たのと司が云ってハッピーエンド。

序盤でプロレタリア文学について語られる。本作の設定は昭和7年。古本屋店主(新刊書と兼業なのか、出版社もするのか)の織田政雄に仕事はどうだと尋ねられたフランキーは「プロ文がのさばっているからダメ」と答え、骨董品(鉄斎)と引き換えに借金している(後半にフランキーは、もう借金は棒引きにするから来るなと見放されている)。片隅には「プロレタリア文学入門」1円との広告が貼ってある。司との出会いの場である雀荘では、「マルクスボーイやられてマージャンボーイ」という冗談が飛んでいる。

同居人のチンドン屋沢村いき雄(元落語家)達との交流は描かれず、ただへんなオジサンとだけ描かれていたのは何か不足感がある。賄いの横山道代が可愛い。あんな安宿でも食事を膳に入れて各部屋に持っていくのだ(司と友達になっている)。下宿人たちは相対には貧乏だが、他方では優遇されてもいる。こんなことが成立したのは都市部だけに違いない。物価が違ったのではないのだろうか。

入った下宿に残されたクララ・ボウのピンナップという考証が素晴らしい。OPもENも早大の講堂前を軍隊が行進し、最後は主人公ふたりが手を振っている。どういう含みなのか全く不明だった。東京映画モノワイド。

(評価:★4)

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