[コメント] キートンの案山子(1920/米)
蓄音機がガスコンロになるとか、浴槽(洗面台?)をひっくり返すとソファになるといった、思いもかけない複数機能や、紐を引くと天井から塩とか胡椒とかの瓶がぶら下がったり、食べた皿を壁にかけて洗うといった奇天烈な扱い方、あるいは、残飯は床下に捨てると豚の餌になり、浴槽の水は庭に流れてアヒルの池になるといった循環的利用に感心する。ただし、ピタゴラスイッチ的な仕掛けがピタッとはまる面白さはあまりないと思った。あと、キートンとロバーツの2人をテーブルの端と端に配置して食事をするシーンでは、ロバーツの寄ったショットはあるが、こゝで はキートンのショットに切り返したりはしない。
私は後半の背景をどんどん変化させていくナンセンスの連打が好きだ。大きな垣根の間からシビル・シーリーの登場。彼女をめぐるキートンとロバーツの喧嘩の後、シーリーの父が来て、家に帰らされる。クリームパイを窓辺に置くシーリー。なぜか庭の乾草を積んだ前でダンスをし始める。犬のルークがパイを食べる。キートンが来て、これもなぜか分からないが、狂犬だと思い込み、逃げる。こゝから始まる犬とキートンの長い追いかけ合いがいい。立てかけの?レンガの家、その壁の穴や壁の上を上手く使って見せる。前半のワンルームの床の穴や浴槽といった装置も再利用し、舞台は、凄い量のワラの山に移って、犬とキートンはようやく握手する。お次は、キートンがロバーツとシーリーの父から追いかけられることになり、農場の案山子のある場所、川、木立のある道路、馬具屋の前の馬に乗っての逃走、サイドカーに乗り換えての逃走といったかたちで場面を繋ぐ。
途中、靴の紐を結ぶために跪いたキートンを見たシーリーが、求婚されると勘違いし「そんな突然」と急にモジモジし始める可愛い場面がある。こゝで、シーリーのウェストショットにアクション繋ぎのように繋ぎ、次にキートンのバストショットで切り返す。これが奏功している。さらに、2人の視線で右側のオフ空間を意識させ、川でドタバタしているロバーツとシーリーの父親を映すというショット構成にも映画的な洗練を感じる。この後、馬具屋の2頭の馬にも複数の意味を持たせ、さらにサイドカーの中で、大きなナットを指輪にする、という序盤から一貫したガジェットの多重性を繰り出して、有無を云わさぬナンセンスな帰結に収束する。この強引なラストショットもいい。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (0 人) | 投票はまだありません |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。