[コメント] 影なき男(1934/米)
この第一作も、概してプロット展開はほゞ原作通りと思われるが、醸し出すムードは全然違っていて、ハードボイルドとは云い難い、ロマンチック・コメディ+ミステリーになっている。つまり、殺人事件の捜査・探偵の面白さは二の次で、主人公夫婦、ニック−ウィリアム・パウエルとノラ−マーナ・ロイの掛け合いの魅力で見せ切る映画なのだ。しかし、この後シリーズ化されたことが十分に首肯できる面白さだ。
パウエルは、パーティシーンでマティーニを作る後ろ姿として登場し、ロイは、そこに愛犬アスタと共に現れるが、登場した途端、いきなり、こける演技を見せる。あるいは、ロイが部屋のドアを開けると、パウエルとモーリン・オサリヴァンが抱き合っている、という場面での、二人(ロイとパウエル)のしかめっ面の応酬だとか、パウエルがロイを殴って気絶させるシーン(実は銃弾がロイに当たらないようにするための措置)の後の、ロイの態度だとか、私は、ロイの泰然とした器量の大きさの描写が、本作の一番の魅力だと感じられた。
また、多くの屋内シーンでは、2台カメラのマルチ撮影+アクション繋ぎが行われ、きめ細かなカット割りで、良いリズムが生まれているし、要所(警察の聴取場面など)で、ワイプ繋ぎを見せる部分も、プロット運びのコギミ良さにつながっているだろう。W・S・ヴァン・ダイクの演出も快調だ。
あと、愛犬アスタの擬人化されたコメディシーンも印象に残る。例えば、クリスマスパーティで皆が「O Christmas Tree」を唄い出した際に、アスターが耳をふさぐカットだとか、パウエルとロイが、列車の寝台に同衾する場面で、アスタが、目を隠す所作するところだとか。尚、ラストはNYからサンフランシスコへ向かう列車のシーンだが、これは次作『夕陽特急』の冒頭に繋がる。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (0 人) | 投票はまだありません |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。