[コメント] エノケンの青春酔虎伝(1934/日)
クレジット開けは、学生たちが門から出て来、女学生が丘を登ったり走ったりするショットが続く。皆同じ制服で歌い踊る。二村定一とエノケン、榎本健一も登場する。なんてシュールなミュージカル場面。女子では、堤真佐子が中心にいる。本作は二部構成と云ってよく、一部は学生時代で、二部は学校を出て社会に出た後が描かれる。
学生時代のシーンでは、堤真佐子の部屋の壁に飾ってあるモナ・リザの絵をエノケンが盗もうとする場面から始まる流れがいい。堤の友人−堀越節子が「どうせ夜店で10銭ぐらいでしょ」と云う。そこに現れる女学院の舎監先生を武智豊子が演じており、これが後年のお婆さん役になってからと全く違い、ふくよかなので驚いた。岡村文子みたい。でも声は確かに武智なのだ。あと、エノケンらが落第せず卒業させてもらうために頼みに行く先生として丸山定夫がワンシーンのみ登場。丸山先生が出てくる前に、その子供がお膳のカステラを取っていくのを3回見せるのだが、微妙な「間」が面白いのだ。
大学卒業後のエノケンは実は会社の跡取りで、若社長になっている、という展開。いい加減だが、しかしギアシフト感がある。社員には、いつもぺこぺこしている中村是好や、怒りっぽい課長の藤原釜足がいる。モダンガールになった堤にアタックして振られたエノケンは消沈して引きこもるが、東京宝塚劇場(科白では東宝劇場)で、見合いを行い、千葉早智子と結婚する。この頃の千葉は本当に綺麗だ。エノケンの留守中に堤と堀越が訪ねて来て千葉が応対する場面では、画面の後景の壁にモナ・リザが映っており、しっかり伏線回収する作劇は上手い。この流れで千葉がヤキモチを焼く見せ方はちょっとクドいが、会社のエノケンに電話し、「すぐに帰って来て!」と云った次のショットで「ただいま!」とエノケンが現れるという自由な演出には吃驚した。千葉の科白「私、ヒステリーには相当自信があるのよ」ってのもいい。さらにエノケンがカメラ目線になって、夫婦喧嘩について観客に質問するのだ。
そして、何と云っても本作の一番の見せ場は、終盤のビアホールを舞台にした大乱闘シーンで、これは凄い!詳述は避けるが、今まで見たエノケンの中でも、もっとも身体能力の高さがうかがえる、体を張ったファイト溢れる演技を見ることのできるシーンだと思う。エピローグは二村の司会と歌。いつのまにかエノケンはタキシード姿で、開巻と同じく、ベロベロと舌を出すのだ。
#備忘でその他の配役等を記述
・学生時代のエノケンの同級生には、二村の他に如月寛多。あと後輩で森健二。
・エノケンの父親は柳田貞一、母親は英百合子で、姉に花島喜代子。
・ラストの乱闘場面で一人何事もないようにビールを飲む相撲取りは岸井明。乱闘相手のヤクザの親分は大友純か。堤と一緒にいるのは大川平八郎か。
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