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[コメント] グラン・カジノ(1947/メキシコ)

これは傑作。まず、ミュージカル映画としても傑出したシーンが複数ある。本作のミュージカルシーンは、ほゞステージシーン(ステージの演目を映したもの)だ。
ゑぎ

 しかし、冒頭の留置場で主人公のヘラルド−ホルヘ・ネグレーテがギターを弾きながら唄い始める場面は、純然たるミュージカルナンバーに近い。なぜなら、伴奏楽器がギターだけでなく、画面に映っていない楽器(金管や打楽器)が加わって、徐々に増えていく、というファンタジーが描かれているからだ。

 先に傑出したステージシーンを上げておくと、まずは、グランカジノの舞台に悪女カメリア−メルセデス・バルバが最初に登場するダンスシーン。実はこゝが一番感激した。舞台上で踊り出したカメリアが、舞台から降りて、客席の外縁をぐるっと回って舞台に戻って来るまでをドリーと360度パンを使ってワンカットで見せる。こゝは素晴らしい撮影だ。これと同じぐらい良いと思ったのが、終盤のグランカジノで、ヒロインのメルセデス−リベルタ・ラマルケが出番だと呼ばれて、黒のイブニングドレス姿になって舞台で一曲唄うシーンだ。実を云うと、もうさっさとプロットを進めて欲しいと(もっと云うとこゝで歌唱シーンなんかいらんのじゃないかと)思いながら見たのだが、いや、この歌唱シーンもなかなか見せる、聞かせるのだ。

 本作の前半のプロットを簡単に記すと、留置場を脱獄したヘラルドと友人のデメトリオが、ひょんなことから油田(石油会社)の代表エンリケを助けることになる、というものだ。エンリケは、大きな石油会社から操業を邪魔されていて、ヘラルドたちは義侠心から助勢に加わる。実際に脅しをかけてくる敵は、グランカジノというクラブを経営しているファビオとその部下のラヤドたち。そこに、エンリケの故郷アルゼンチンから妹のメルセデスがやってくる、という展開。

 さて俳優について少し書いておくと、主人公もヒロインも伸びやかな声で歌はとても上手い。特にメルセデス役のリベルタ・ラマルケは有名なアルゼンチンタンゴの歌手のようだ。ただ、美人ではあるが、伏し目がちになった際の顔がキツく見えて(老けても見える)私はちょっと苦手だった。配役の中では、後にハリウッド映画にもいくつか出るようになる、ラヤド役のアルフォンソ・ベドヤ(『大いなる西部』でペックの助手のようなメキシカン役が有名か)が目立つ役で嬉しかった。序盤から印象的な登場をするし、殺人の実行犯でもある実質的に一番怖い悪役という扱いなのだ。

 そして、中盤、終盤のプロットのヒネリも良く出来ている。例えば、上で、ヒロインのメルセデスが石油会社の代表エンリケの妹だと簡単に書いたけれど、これは我々観客には知らされている事柄だが、主人公ヘラルドにはプロット上は隠されている、といった設定がうまく機能する。あるいは、終盤、ヘラルドが絶体絶命の危機、というタイミングでメルセデスが取る行動も、私には意外なもので、これがまたピシャリとはまって、さらに簡潔に時空をジャンプした繋ぎでラストをむかえるのだ。いやこれは気持ちのいいエンディング。商業主義に徹したブニュエルも素晴らしい。

(評価:★4)

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