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[コメント] ロジャー&ミー(1989/米)

資本主義はハシゴみたいなものだ。下なんか見てたら怖くて登れない。だから、上しか登れない。そして降りられない。
荒馬大介

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 レイオフを執行した会社側としては、工場閉鎖は企業戦略であり、多少なりともやむをえないと考えている。そして工場閉鎖で特に何の影響も無かった人達は、レイオフされた人達を「気の毒」と思い、励ましの言葉をかける。

 従業員が10人もいないようなちっぽけな会社が倒産したのであれば、資本主義の元なら“よくあること”で済まされるだろう。現に、今この瞬間にも日本で会社が倒産しているのかもしれないのだから(そしてまた起業した会社もある)。問題なのは、過去にあれだけの繁栄を極め、起業した街ですら、GMという会社にとってはただの「工場のある街」に過ぎず、何千人もの失業者を出しても“よくあること”として片付けてしまう……。ムーアは、こう思ったに違いない。

「資本主義って、そんなに残酷なものだったのか? “誰にでもチャンスがある”なら、なんでこんなに街が寂れるんだ?」

 そこで彼はこう思う。「ロジャーにこの惨状を見てもらうしかない!」

 ここでいう“ロジャー”が、会長のロジャー・スミスだけを指しているようには思えない。確かにロジャーは攻撃の対象ではあるが、彼が本当に非難したいのは、ロジャーと同様に資本主義の恩恵を被り、他人がレイオフされても何不自由なく暮らしている人間達なのだと自分は思う。彼等はレイオフされた人間に「くじけるな、希望を持て。未来があるんだ」と簡単に言う。無論励ましでもあるのだが、レイオフされた側としては残酷な意見でしかない。

 なぜなら彼等工員達は、資本主義の恩恵を“会社のために懸命に働く”ことで得ていた人間だからだ。そして、奉仕した分だけの利益を会社に求め、それを信じていたからこそ、労組という組織が存在するのだから。すなわちレイオフは、そんな彼等が会社に寄せていた信頼に対する“裏切り”でしかない。自分達を裏切った会社を、どう信頼し直せというのだろう。「未来があるんだ」という人間ほど、そんな状況を全く見ていないと言ってもおかしくはない。見た上で言えるのなら、そいつは余程の自信家なのだろう。だからこそ、ロジャー・スミスがクリスマスを祝う言葉が実に白々しく聴こえてくる。

「しょうがないだろう、それが資本主義じゃないか」「……じゃあGMという会社が潰れるのも資本主義だからだね」

 会長のロジャー・スミスとしては、工場閉鎖は会社の将来を考えての苦渋の決断だったのかもしれない。だがGMは今現在どうかというと、ものの見事に絶不調である。需要が見込める中国市場を狙って作った上海の合弁会社はマトモだが、このところの原油高で肝心のアメリカ国内がパッとせず、社債の格付けは最低ランクにまで落ちた。

 果たして、ロジャー・スミスはこの現状をどう見るか? 

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