[コメント] 花と龍 青雲・愛憎・怒涛篇(1973/日)
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加藤泰版なぜか松竹映画。前年の『人生劇場』と配役がすいぶん被る。明治44年の北九州、こちらはすでに子持ちの三人家族が線路歩む処から始まり、野原でセックスはじめる渡哲也と香山美子という最初から加藤泰流のパッション。一旗あげる行き先を巡って男は支那大陸、女はブラジルで喧嘩。列車から捨てた弁当箱が当たった息子が海に漂流、これを助ける田宮二郎の因縁。連れの石井富子が強烈で、本作を東映とは違うリアルなやくざ映画にしている。
宴席で香川を強姦しかかる敵役の山本麟一、なんて描写がいかにも恐ろしい大正2年、石炭荷役を巡って連合組と共働組の対立。夜半に提灯ともす船から船への荷揚げの件、キャメラは振動でブレまくっている。条件の悪い撮影なのだろう。笠智衆の親分が与太者風の造形で甚だ珍しくいい味があり菅井きんとの老夫婦も箆棒。刺青入れた肌晒す倍賞美津子、渡が刺青決める直前の、二階屋の風鈴の乱舞が感じいい。彫りながら煙草吸う美津子がごっつい。彫れた途端に風吹きすさぶセックス。
子持ちの香山に昔の結婚持ち出して云い寄る時次郎になんと坂上二郎(しかし以降は登場しない)。渡が息子に買って帰るシュールなお面は当時の流行りなのだろうか。香山が子供連れて逃げて小倉駅の待合室、破産した博奕打ち石坂浩二の息子の看病の長回しの件はローアングルで、まるでかぶりつきから舞台を見上げるように観せる(逃亡から捕まる大地と竹脇の件も同様)。昔の駅はこういう私事を放ったらかしにしてくれたものなのだろう。
渡が刺青入れるのも支那大陸行きの貯金崩してドス買うのも、汐路章に親方になれと云われたためだった。嵐に乗じて田宮ほかの殴り込みを受け、俺はヤクザじゃなかと渡が云っても通じず喧嘩。玉井組の背中のラッキーストライクみたいなロゴは裕次郎作と同じ。
昭和6年若松の遊廓、渡の息子の竹脇無我と太地喜和子の駆け落ち。柱時計の針がぐるぐる回るという反則技があり、遊廓の佐藤慶は渡に交換条件として石炭埠頭の炭積機(揚炭機のことのよう)増設反対運動を止めろと云い出し、渡は断り分裂。裁判判例で人身売買は無効と学生の竹脇は主張するのは『骨までしゃぶる』を想起させる。法で戦う姿勢を加藤泰は時折見せる。しかし渡は、借金は俺が払うと古い男の世間の義理を語ったりする。
渡は炭積機増設反対で東京の三菱に嘆願。竹脇は労働組合結社に動き、沖仲仕とは一心同体と語る親分渡と対立する。沖仲仕労働組合は石井富子他やくざ連中にゲバルトをかけられ、叩き斬られる直前まで行く。大正昭和の組合活動ってのは、こういうものだったのだろうというリアルがあった。直後に満州事変が起こっている時代設定。
「だが、新炭積機は出来た。若松港沖仲仕労働組合は予想される失業仲仕救済のためのストライキに入った」と竹脇先頭にやたら労働歌が唄われ、「遂に総罷業に入る」と新聞見出し。軍隊は国賊だと佐藤慶に殴り込みの指示。石井富子も、客人の田宮二郎も参加するスト潰し。親父の渡が教えに来る。「ここは若松ぞ」「友田も同じ労働者だ、敵は三井三菱(!)」と竹脇頑張るも、拳銃と抜刀で乱闘。
このクライマックス、うんこみたいな艶歌が流れ、殺陣はローアングルのバスト中心で泥臭く、飛び散る血潮がプラスチックの玩具みたいなもので歌舞伎みたいに様式的。ドサクサ紛れにいつの間にか義兄である倍賞の娘倍賞と竹脇が親密になっている畳みかけが物凄く、馬で駆けつける香山が格好いい。敵方なのに竹脇助けて撃たれる田宮は20年前を反復した。石坂の息子石坂(二役)が実に唐突に登場して佐藤慶を拳銃で脅してスト潰し取りやめ。香山に救われた命、急あり駆けつけたと。スト成功、仲仕の救済金出る。あんな騒ぎしないとなんで金が出なかったのかと香山がぼやいている。
ラスト、竹脇は大地を追ってマニラへ行き、沢村貞子の案内で墓参りしている件は『サンダカン八番娼館』を想起させるが、本作のほうが1年早い製作。背景を実写にせずスタジオのスクリーンで処理するタッチも『緋牡丹博徒』風。予告編に三編「堂々三時間一挙上映」とあるが三部に仕切られてはいない。助監督は三村晴彦、製作主任に内藤誠、主題歌が美空ひばり。
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