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[コメント] ウルフ(1994/米)

文明、都会(=人間)と、自然、野性(=狼)の融合という、新解釈の「狼人間」。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







夜の街で咆哮するウィルと、それに応えて闇のあちこちから聞こえてくる、獣たちの咆哮。都会の中にも、人知れず野生の生命は潜んでいるのだ。狼化したウィルは、本能に任せた野蛮さを発揮するのではなく、むしろ計算高くなり、鋭い直感を発揮する。却って都会的な弱肉強食に順応してみせるのだ。

ウィルは、病に罹っている老学者から「手を噛んでくれ」と頼まれるが、それに応える事が出来ない。また、ローラが狼化するのは、先に狼化していたスチュワートに襲われた後。狼化し、同類になる事は、憎悪を介してのみ実現する。彼ら、都会に生きる文明人にとって、狼のような野性は、日常の生活の外に在るものなのだ。

トイレでウィルが「テリトリーをマーキング」してみせる場面で、小便をかけられたスチュワートは「スエードなのに」と、いかにも都会人らしい抗議をしてみせる。二人はここで決定的に敵対関係になる。だがこれはまた、スチュワートがウィルの、狼性というテリトリー内に足を踏み入れたという事でもあるだろう。

最後に姿を見せたローラは、漆黒の衣裳に身を包んでいて、それまで見せた事の無いような色香を発している。黒い衣装は、狼の黒い毛皮の暗喩であり、また、夜の闇への連想も誘う。終始、狼は身近な存在、その野性も人間の内なるものとして描かれており、老学者の台詞にあるように、狼の霊に憑かれる事は、必ずしも呪いではなく、祝福でさえあり得るという事。

(評価:★3)

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