[コメント] 叛乱(1954/日)
しかし、複数の監督が急遽分担して撮り上げたとは思えないほど、ルックやリズムは一貫しており、いやあ当時のスタジオシステムの優秀さを思い知らされる。
アバンタイトルは「昭和10年8月12日」と出た後に相沢中佐−辰巳柳太郎による軍務局長(永田少将)惨殺事件のシーケンス。その後、字幕及びそれを読み上げるかたちのナレーションで当時の状況について解説が入る。続いて軍法会議(裁判)シーン。二・二六事件の主犯格将校たちへの死刑宣告が行われる。云い渡す判事は千田是也。叛乱罪で死刑。これを律儀に全員分ひとりひとり見せる。この律儀さは、終盤の処刑場面でも反復されていて、銃殺刑のシーンを四連打するのだ(その度に、天皇陛下万歳!を聞かされる)。これには少々冗長に感じさせるキライもあるが、しかし、叛乱将校、その他首謀者たちを、できるだけしっかり、余すことなくカメラに収めようという強い意志が感じられる演出であり、それは撮影前の佐分利の意志が応援監督にも徹底されているように私は想像する。あるいは、全編を通じて、屋内シーンにおけるこれらの将校たちのショットは、ほゞパンフォーカスと云ってもいい深度で撮られており、これも、縦への意識というよりは、演者全員の表情を写し撮りたいという演出家の願望に私には思える(これも佐分利の申し送りではないだろうか)。
死刑宣告の後、彼らが代々木陸軍刑務所内へ収監される場面で見せるクレーン撮影は素晴らしい。画面左奥に演習する兵士たちが小さく見え、左手前は護送される将校たち。右にパン及び移動して刑場を見せる俯瞰ショット。こゝから、思想的指導者だった北一輝−鶴丸睦彦、及び西田税−佐々木孝丸らも加わった監房のシーンと、二・二六事件の顛末とが、特に年月日を示さずに時間を錯綜させて描かれることになる構成にも驚かされた。ちなみに西田税は佐分利が自身で演じる予定だったようで、それが革命歌「インターナショナル」の訳詩者である佐々木に交代したというのは、いやなんとも酔狂だと思う。
さて、本作はたいへんな群像劇ではあるが、叛乱軍首謀者の中でも最も目立つ存在は、安藤大尉−細川俊夫だろう。山形勲演じる磯部(元一等主計)や安部徹の村中(元大尉)、あるいは、栗原中尉−小笠原弘が真の首謀者として、序盤は彼らの場面でプロットを運ぶ部分も多いが、安藤大尉の参加(の決意)が焦点になるということや、終盤の自決ムードとその払拭の往復を描く場面でも、彼の動向が一番描かれていると思う。いやそれ以上に、最も思慮深く、部下の信頼も厚い上官というキャラクターに、細川がぴったりハマっているのだ。
尚、鶴田浩二、香川京子、津島恵子、木暮実千代といったスターたちは特出だ。ワンシーンしか登場場面はない(役柄は下に備忘として書いておく)。また、物足りない感覚を持つ点としては、事件決行場面があっさりし過ぎていること、東京市街の戒厳令の雰囲気がほとんど描かれていないことなんかを指摘できるだろう。事件中の一般の人々が描かれるのは、山王ホテルの前に野次馬が集まっている場面ぐらいだ。上にも書いたが、終盤の銃殺刑シーンの繰り返しには辟易するところもあるが、和服姿の北一輝と西田税が刑場に向かうエンディングは面白い。「天皇陛下万歳」について「私はやりません」と西田が云うのは、案外、佐々木孝丸が死んでも(天皇陛下万歳を)云いたくなかったからではないか、なんてつまらない穿鑿をしてしまう。
#備忘でその他の配役などを記述します。
・叛乱将校には他に、大尉で菅佐原英一、丹波哲郎がおり、沼田曜一と近藤宏が少尉だが目立っている。また、叛乱を黙認した山口大尉は、清水将夫。
・首相をぶった斬れとそそのかす山下奉文少将は石山健二郎。川島陸相は御橋公。真崎大将の島田正吾は別格の貫禄。
・細川が酔いつぶれて入ったホテル(というか娼館)の女給で香川京子。香川は兄が細川と同じ連隊にいると云う。それが鶴田浩二。
・清水に面会に来る女性で津島恵子。彼女の許婚は清水の部下の軍曹−福岡正剛。
・木暮実千代は鈴木貫太郎侍従長夫人。警視庁を占拠するシーンの副総監は宮口精二。軍隊と警察が争ってどうする!
・山王ホテルの周辺のシーン。タクシー運転手で田中春男。野次馬の中に、小倉繁、小川虎之助、高島忠夫がおり、叛乱軍側を酷評する。
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