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[コメント] 情婦(1957/米)

毒と知性とヒューマニティ。軽口すら知的であり、皮肉ですら情味がある。法廷シーンには緊迫感が漂いつつも、皆、妙に楽しげなのが面白い。(*未見の方は、ここまで。念の為に指摘しますが、この赤文字はネタバレです→)
煽尼采

**ネタバレ注意**
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最後、ディートリヒは殺害された老婦人と同様の「利用された年増女」に成り下がる。タイロン・パワーの立場からすれば結局、自分が殺した「老婦人」に殺されたようなものだ。「あの年で、あの色気」なディートリヒ無しには成立しない構図だな、これは。若い「情婦」に年増呼ばわりされて、自身は情婦の立場から転落する様は、罪人とはいえ哀れ。

あの娘の涙が、実は情婦である事の伏線になっていたとはね。検察に「名演技」と皮肉られた、被告人たるタイロンが実際、違った意味での名演技だった点など、結末を知った上で見ると、また違った楽しみが生まれそうだ。だからこそ、初見では結末を知らずに観るべきなんですよね。

結果的にはバカを見る老弁護士だが、彼の法廷での的確な仕事ぶりは溜め息もの。また、薬を規則正しく並べながら思考を巡らせている態の彼の姿は、自らの心身を削りながら状況のパズルに取り組む姿勢が見て取れ、応援したくなってしまう。相手を眼鏡の反射光で追い詰めているつもりの彼が、実は自身が眼を眩まされていた、というのも、それはそれで人間的ではある。

にしても、会話の軽妙さには感心させられる。いかにもイギリス風な毒舌ぶりと、さらりとした品位ある表現に込められた人情味。これは原作の力なのだろうか。一度も読んだ事の無いクリスティだけど、そろそろ読んでみようかという気になりましたよ、これは。

(評価:★4)

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