[コメント] 情婦(1957/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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この映画の原作アガサ・クリスティの『検察側の証人』は,彼女の最も有名な短編だが,映画と原作とでは決定的に違っている点が一つある。それはラストのどんでん返し。
妻の(嘘の)証言によって,本当は罪を犯していた夫が助かるところまでは原作も映画も同じだが,原作はここで終わっている。ところが,映画ではもう一ひねり,さらに大きなどんでん返しがある。妻があんなに愛していた夫は,実は若い女とデキていて妻を裏切っていたという意外な結末。
特に,知的で大胆,行動力のある妻が,だらしない夫にあっけなく裏切られるところが何とも気の毒で衝撃的だ。夫の無罪を勝ち取るために,あれだけの大芝居を考え,実行した妻が,夫に愛人がいることにまったく気づかなかったとは…。(その意味で,邦題の『情婦』とは,妻が夫と正式に籍を入れてなかったという意味だけでなく,ラストで登場する夫の愛人も暗示しているという,二重の意味になっているようにも思える。)
クリスティの原作も,夫にとって最大の味方であるはずの妻が裁判で突然敵になったと思いきや,実はやはり最大の味方だった…という話をコンパクトに描いていて面白いのだが,もともと短編なので,ポアロが出てくるような長編の傑作と比べると重厚感の無さは否めない。
ところが映画では,圧倒的な存在感を示すディートリヒと飄々たる名演のチャールズ・ロートンをはじめ要所要所にクセのあるキャラクターを配し,(すでに何人かの方が指摘されているが)ミステリである以前に,実に面白い人間ドラマになっている。さすがビリー・ワイルダーだと舌を巻いた。
なお,この作品を観れば明らかなように,ミステリの作品では,ラストまで持っていくストーリー展開や登場人物の一言一言までをも描いたきめ細やかさがあってこそ,ラストのどんでん返しが活きてくるのである。そういう過程を一切抜きにして,ただ「どう? ラストが意外でしょ?」というだけでは,二度は観る気がしない。小説でも映画でも本当によくできたミステリとは,何度も読む(観る)に値する作品なのだということが,この作品を二度観てよくわかった。
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