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[コメント] フェイズIV 戦慄!昆虫パニック(1974/米)

B級感丸出しの邦題が気の毒だが、『めまい』のオープニング等で知られるソウル・バスのセンスが爆発。冒頭の、延々と蟻の生態を捉えたシーンが美しい。この無言の映像表現も含め、『2001年宇宙の旅』の影響を覗わせるが、瞬間風速ではときに凌駕。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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例えば、祖父母を蟻に殺されたケンドラが、研究室で博士が蟻を観察していたガラスケースを激情に任せて破壊する直前の、蟻と見つめあうシーン。ここでの、首を傾げる薄オレンジ色の蟻を正面から捉えたカット。ここでの、感情があるのか無いのか不明な曖昧さを蟻にまとわせる演出には震える。この演出は、人間に殺された夥しい数の蟻たちの屍骸が整然と並べられた葬儀(?)シーンでも光る。

最も戦慄したのは、ケンドラの祖父の遺体が発見されるシーン。固く握り締めた手を広げると、掌に黒々と空いた複数の小さな穴から、蟻が這い出てくる。掌に蟻、というと『アンダルシアの犬』を連想するが、「体内」から蟻が登場する衝撃は強烈。本作のベスト・カット。

一匹の蟻が、機械内で螺旋状の線の上を這うシーンや、眠るケンドラの肌を這うシーンの美しさ、等々を挙げていけばキリが無いが、一方で人間どものシーンは画面が何とも凡庸で、バスの興味が蟻に集中しているのがよく分かる。

砂漠の真ん中で孤立した、周囲に人の気配の無い貧しいロケーションであるが故に、却って、人類の滅亡という状況を先取りしたような印象を与えてくれ、演出効果も抜群。この簡潔さと完璧さもまた好ましい。

(評価:★3)

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