コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] チャップリンの勇敢(1917/米)

テンポのよい語り口は技術的な達成だがドラマを構成する要素に寄せる象徴性はいささか安易なSO-SO作品
junojuna

 チャップリンがストレートに善良なる志向性を表現として打ち出した歴史的な一作である。映画のファーストカットでまるで打ち捨てられた子犬のような風情で登場するチャーリーの姿は、本作のドラマ性を暗示したカットとして大きなインパクトがあり、そうした感情移入を呼ぶ描写を置くことで、鑑賞者にこの映画を善なる見方で臨むよう示唆しているかにも見える。このように映画のジャンル規定といえるような前提を与えたうえで、本篇はひじょうにテンポよく躍動していく。しかし、本作が他のチャーリー映画と違ってややニュアンスを異にするのは、そのドラマの施しにチャップリンの思想性が危うく滲み出ている点である。これまで人情的な物語を体現するチャーリーの立ち位置は、あくまで自己中心的な個人レベルでの生活苦の中でもがき奮闘した結果の悲喜劇に立ち上る哀愁であったが、本作においては、まるでキーストン期の作品の中でチャーリーが夢想していたヒーローそのものとして活躍し、しかしそれは夢ではなくその映画内現実において事実勝利してしまうという、その意味ではチャーリーがチャーリーたるゆえんを自ら放棄してしまいかねない危うさに満ちた作品であった。本来のチャップリン自身が持ち合わせている博愛的な教条と自己完結性を志向する全能感が滲み出た本作は、後のチャップリンの頑固さに通ずる無意識的な表現欲求であったのではなかろうか。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。