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[コメント] キートンの隣同士(1920/米)

これは高低を活かした画面の面白さの見本市のような作品だ。高低を平面的、あるいは立体的に(奥行きを伴って)見せる画面のアンサンブル。勿論、高低は落下、あるいは落下を予期するスリルにも機能する。
ゑぎ

 またそれは、本作では(サイレントらしく)かなり引いたロングショットで示されることがもっぱらだが、そんな中で、唐突にバストショット以上に人物に寄った鮮烈なショットが挿入されて、小さく周章(どきどき)させられる。これがなんとも上手い。

 ファーストカットは隣り合った建物の庭。塀を挟んでバスター・キートンヴァージニア・フォックスが立っている俯瞰のエスタブリッシングショットだ。こゝからポンとキートンの全身フルショットに寄る繋ぎ。窃視(覗き見)のモチーフを挟んで2人の両親を登場させた後、フォックスを建物3階の窓に仰角で見せ、次にキートンに繋いで見上げる視線を演出する。もうこの冒頭で本作の完成度を感得してしまうじゃないか。

 他にも仰角俯瞰の繋ぎでハッとする場面としては、塀の向うに頭が見えて、フォックスの父親−ジョー・ロバーツと思いこんだキートンが、箒で叩くと警官だったというシーン。こゝで挿入される塀の上のキートンの仰角アップ(警官を見下ろすショット)は「切り返し」のような繋ぎになっている。あるいは、裁判所のシーン。高いところにいる判事に向って話すフォックスのアップが俯瞰で挿入される部分があるけれど、これも「切り返し」に近い繋ぎだ。

 あとは、多くの方が指摘する通り、3階建ての建物の窓と庭の洗濯ロープ、屋内の階段なんかを使った平面的というか断面的な高低のアクションも、もう筆舌に尽くしがたい面白さだし、3人肩車(しかも肩に直立したかたちでの肩車)という曲芸技と、ダミー人形などのガジェット活用の面白さも並外れたものだ。しかし、そんな中で、フォックスの可憐な花嫁姿がアイリスインで唐突に挿入される、といった緩急のセンスが素晴らしい。あと、私が一番可笑しかったのは、キートンも司式者もズボンがずり落ちる状況となり、仕方がないので床に座って結婚式を進めるという常識を破る演出かも知れない。エンディングの急転直下の強引な帰結もバッチリ決まる。これが地上にとどまらず、地下まで落下するというのだから徹底している。

(評価:★4)

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