[コメント] キートンの警官騒動(1922/米)
「ビッグなビジネスマンになるまで結婚しない」と云われる場面。鉄格子もフェイクだったが、この出世モチベーションも実はフェイクで、確かにキートンがビジネスで成功しようとする部分が無くはないが、プロットとしては後半になってこのモチベーションは反故にされ、タイトル(原題も「警官たち」)が示す通り、大勢というか大量の警官たちを、画面に押しこんで提示することが主眼になる。換言すると、本作のタイトルは、フェイクではない。
なのだが、後半の大量の警官たち、そのモブのスペクタキュラーには勿論瞠目するが、しかし、一番感嘆したのは、モブの物量以上に本作でもキートンの身体能力だ。警官たちに追いかけられたキートンが、高速で走る自動車の後部に、まるで引っかけられたかのように、掴まって乗ってしまう運動は驚異的だろう。これに続いて、お得意のハシゴを使ったバランス運動が描かれるという、この2連打のアクションシーンが本作のハイライトだ。ハシゴからワイヤーアクションで宙を飛んだ先には警察署長のジョー・ロバーツがいた、というオチもいい。
あと、前半の馬車馬への演出も書き留めておきたい。馬付きの馬車と5ドルの値札が見えていて、キートンが馬を曳いて行くと、トルソー(マネキン)にかかった背広だけが路上に残り、これが5ドルだったというフェイクのギャグも面白いが、馬が街頭で止ってしまい、云うことを聞かなくなった際に、ヘッドフォンを馬の耳に当て、御者台から電話の受話器で話すと動き出す、といったナンセンスな演出がとても可愛いと思った。
尚、本作には対面する人物の、はっきりとした切り返し(ショット/リバースショットの繋ぎ)は出てこない。ただし、最初に書いたように、人物一人を寄り気味に抜いて撮ったショットは何度も現れる。警察署長のロバーツが最初に出て来る序盤のシーンでは、彼にもあるし、ラストシーンでもヴァージニア・フォックスが登場し、彼女にもう一度、一人だけのウエストショットが与えられる、というのは、落ち着きのいい構成だ。
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