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[コメント] 朝の並木路(1936/日)

やっぱりカッティングが抜群に面白い。そんなことは成瀬だから当たり前だが(現存する全ての成瀬作品がそうだと云われそうだが)、この頃の例えば『サーカス五人組』や『噂の娘』等と同じく、本作の会話シーンのカッティングももう魔法のようだ。
ゑぎ

 特に千葉早智子赤木蘭子がカフェの2階の部屋や道を歩きながら会話するシーンにおける、それぞれを立たせたり座らせたりしてフレームイン/アウトや切り返しを繋げる演出は、この映画の一番の見せ場と云ってもいいと私は思う。

 あるいは、冒頭の千葉が故郷を出るシーンにも、既に瞠目する繋ぎがある。茶店みたいなバス停で千葉と父母-御橋公山口ミサヲ-が会話している最中に、千葉が立ち上がり画面奥へ歩いてくショットがあり、これに続くのが、麦畑を左にパンしたショットに左から千葉をフレームインさせる画面なのだ。こんなの誰もやらない、いや鈴木清順ぐらいしかやらない演出ではないか。

 また、この頃の成瀬の特徴として、クライマックスなどのエモーショナルな場面でドリー寄りを連打する癖があるけれど、本作でもカフェのマダム-清川玉枝と女給の伊達里子の修羅場の場面での前進移動ショットの連打には、私はやり過ぎのクサさを感じてしまった。ただし、大川平八郎の登場ショットであるカフェの店内に座っている彼からの後退移動、及び、終盤で千葉と大川が2人で旅行をする直前の、やはり店内にいる大川へのとても素早い前進移動ショットは非常に効果的な使い方だ。ちなみにこの旅行シーケンスはプロット構成(というか箱書きの構成)としてとても面白い。特に、このシーケンス中、「故郷の空」を唄う千葉のシーンがあり、次に幻想のような(まさに夢のような)、千葉の故郷への帰省シーンが挿入されるというのが、ふるっている。

 あと、成瀬らしいシーン転換時のクスリとさせるような見せ方の例をあげておこう。まずは、カフェの表の壁に「女給入用」という手書きの貼り紙を、貼ったり外したりすることでカフェの状況を分からせる処理。他にも、夜、店の前にいる大川のところへ千葉が万年筆を持って行った場面で、ティルトアップしてカフェの2階の物干し台を見せ、次にディゾルブし翌朝、洗濯物が干されている風景を見せるとか、上述の幻想のような帰省シーンは、ワイプで旅館の窓から見た現実の風景に転換されるのだが、その後すぐに、千葉が窓のカーテンを開けるショットを繋ぐ、つまり、ワイプとカーテンのマッチカッティングなんかも指摘すべきだろう。あるいは窓以外にも、頻出する鏡の活用もキャッチさせる。

#備忘でその他の配役などを記述します。

・カフェの主人(マダム-清川玉枝の旦那)は三島雅夫。他の女給には、フサ子-清川虹子、フジちゃん-夏目初子。カフェの客でノンクレジットの小沢栄太郎

・冒頭近く、東京に出た千葉は、上野(西郷像前)、丸の内、銀座を見物する。上野のシーンで千葉の横に来る男は柳谷寛。この人もノンクレジット。

・主な舞台となるカフェの住所は「芝区白金台町」と出る。階段で高台に出た先のカフェ周辺はスタジオセットに見える。カフェ周辺の場面では当時の流行歌が沢山流れる。千葉は唱歌「旅愁」も唄う。

(評価:★3)

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