コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 帽子箱を持った少女(1927/露)

冒頭、宝くじ付国債の宣伝映画、という解説が出る。お祖父さんとナターシャ。主人公のナターシャはアンナ・ステンだ。早々に彼女はお祖父さんに、結婚なんてまだまだよと云う。本作は結婚にまつわる映画だと分かる。
ゑぎ

 家の最寄りの駅員はナターシャに気があり、毎日でも会いたいと思っているということも早々に示されて、ナターシャと駅員の恋愛譚なのか思わせられる。雪景色。駅からナターシャの家までに結構な斜面があり、木橋を渡らないと、先に行けない。この木橋と斜面で人々が滑るのが面白い。縦構図を作る良い装置とも云える。しかし、ナターシャだけは決して滑らないというのが、常套だが良いところ。

 帽子箱を持ったナターシャはモスクワ行きの汽車に乗る。同じコンパートメントの寝台みたいな上の場所にいるのが青年イリヤ。大学生か、本を沢山持っている。長靴のようなブーツが目立つ。邪魔な足。モスクワには、ナターシャが帽子を納入する店がある。マダムイレーネとその夫の店。イレーネはフローラ・ロブソンあるいは室井滋に似ている。なぜか、空き部屋をナターシャに貸しているということにしている。住宅難なので、空き部屋は住宅委員会に届け出て管理される制度のようだ。マダムイレーネたちは自由に使える部屋を確保したかったから、滅多に来ないナターシャを登録し、住んでいると偽装した、ということだと思う。

 一方、大学生のイリヤは金を落としてしまい、泊まれる場所がなく、駅の待合室で夜を明かす。帰宅途中にイリヤと再会したナターシャは、彼を可哀想だと思うのだが、このあたりの見せ方も、汽車に乗ったナターシャと見送るイリヤに会話をさせる、というお膳立てが良い画面を作る。ナターシャは、イリヤを自分の名義になっている帽子店の部屋に住まわせるアイデアを思いつくが、それには、2人が結婚する必要がある。というワケで、イリヤと偽装結婚することになる。

 マダムイレーネの家では、客を迎えてディナー中。そこにナターシャとイリヤが来て、ナターシャの部屋で暮らす権利を主張する。イレーネたちは一応逆らえず、隣の部屋に移動するのだが、家具やカーペットも移動する場面はギャグになる。夜、部屋に2人が泊まるシーンでは、帽子の箱とその蓋でバリケードにするというのが可愛い演出。

 尚、宝くじに関しては、ナターシャへ渡す帽子の代金を、マダムイレーネの夫が現金でなく、宝くじで渡したことから騒動に発展する。このイレーネの夫も大したコメディリリーフで、ナターシャとお祖父さんの家にまで来て、駅員と二人でドタバタ演技を披露するのだ。マダムイレーネという存在があるにも関わらず、ナターシャに求婚までする。

 そして最終盤のキスシーン。縫い針を指に刺してしまったナターシャを見たイリヤが、指に口を当て、血を吸ってくれる。ナターシャは、今度は、唇にワザと針を刺す。これはとても有名な場面だけれど、なんて倒錯的な、映画的な演出だろう。この時、アンナ・ステンは19歳ぐらい(サイレント的メイクもあり、8年後のハリウッドデビュー作『結婚の夜』よりも私には年上に見えた)。そしてボリス・バルネットは25歳だ。宝くじ付国債の宣伝という目的は、ほとんどどうでもよくなっているように思えるが、コメディ映画としての出来栄えは本当に見事なものだと思う。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。