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[コメント] サヨンの鐘(1943/日)

本作も道の映画。台湾に行っても、清水宏は道の映画を撮っている。冒頭、高砂族の紹介の後、水牛が左から右へ横切る。その後の村の描写で繋がれるカットは、このロケーションの道のバリエーションを見せているのだ。
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そして、サヨン、李香蘭と子供たちで豚を追いかけるシーケンスとなるが、一人の男の子が赤ん坊を道の外れの木にくくりつける、この木を収めたロングカットが絶品の美しさだ。

 サヨンは一人で元気に走り回るが、友人のナミナと花の咲いている地面を二人で転げ回る場面がいい。ナミナ役の三村秀子は現代的な美人だ。また、内地(日本のこと)から帰って来たサブロを演じる島崎溌という人も、とてもハンサム。

 中盤以降、山の上の湖から、水田のための水路を引く話が描かれ、『みかへりの塔』(1941)の焼き直しになるのかと思わせるのだが、『みかへりの塔』のような、用水路工事の場面は殆んどない。ただし、湖は、重要な舞台として機能させて描かれる。まずは水源調査の場面。サブロが長く潜水するので心配なサヨン。あるいは、サヨンは人身御供のように、湖の浮島で暮らすことが強いられる。そして、ラストカットも湖の大俯瞰だ。子供達が、サヨン!と叫ぶ。見ている我々は浮島に向かって、呼びかけているように見える。するとなぜかオフで鐘が鳴り出すのだ。人の名前を大声で呼ぶ、という演出も、清水宏が好きな(彼の映画で頻繁に現れる)演出だ。

 さて、サヨン、李香蘭の歌唱シーンも多い映画だが、備忘を兼ねて、劇中唄われる二つの軍歌について書いておきましょう。まず、村の青年が日本軍に召集され、出征する際に唄われる「台湾軍の歌」。私は初めて聞いたが、村人たち皆で合唱される。もう一つは「海ゆかば」で、見晴らしのいい場所にいるサヨンとサブロのカットでサヨンが歌う。すると、学校の教室が繋がれ、若水絹子のオルガン伴奏で、子供達が歌う。さらに、学校の後は、灌漑作業の人達のカットでの、歌唱なしの劇伴に引き継ぐ。この「海ゆかば」の使い方はさすがに印象に残る。

(評価:★3)

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