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[コメント] 激流(1952/日)

賛助後援建設省、西松建設によるダム建設啓発の高度経済成長賛美が三船敏郎とともに炸裂するかと思いきや、わしは農民だからと土地から離れない高堂国典さんとともに物語は迂回を始め、どう始末をつけるかいつまでも決めかねている。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







賛助後援建設省、西松建設。「ダム、人工の湖水が出来上がる前を振り返ってみよう」。冒頭、ボートで戯れる娘さんがやたら可愛い。映画はこの娘の無知を批難がましく揶揄する。湖水にしたのは賛助後援者なのにと思う。

宮森駅で寝過ごす三船。お迎えの西松建設のダンプは男勝りの久慈あさみ。花巻温泉入口。獅子舞風の民俗芸能。いつの間にかダンプに乗り込んでいる風来坊の多々良純。酔った多々良を助ける三船の喧嘩、ガラス戸かち割るいいアクションがある。三船は本採用で労務者ではない。労務者と一緒に食事するのを久慈が笑う件がある。

現場の棒杭に看板「どてら姿ご遠慮ください」。発破で岩砕いてトロッコで搬出。型枠組んでコンクリ。後半には恋人の島崎雪子を案内して現場回りもある。土搬出用に9トンのバケツ、ベルトに乗ってこのカップルを多々良純が冷やかしている。

下敷事故で死亡三人。亡くなった工夫の父が地権者で移転反対。50〜60メートルの水に沈む。立ち退きはまだ半分、未練で残っている者もいるが、立ち退き料増額のための者もいる。契約がまだ全部終わっていないのに工事は始まっているのだ。こちらのほうが驚きだが、当時は違ったのだろうか。

その父は家や田畑取り上げたうえに息子まで奪いやがってと怒り、立退料を受け取らない。立退料あてにして使い込んだ息子の借金の方に妹のひなちゃん田代百合子が芸者に出される。早く立退料受け取って娘の芸者を辞めさせろ、という云い訳に使っている。この設定は稚拙なものだ。

村の風紀は風俗店ができて乱れている、商売はじめたから元が取れるまで工事を延長させようと企む。立退料使って町に出て事業して失敗したものいる。ダム工事が決まってから土地の値段は二倍三倍にもなっているのだから、立退料も値上げしてもらうのは道理なのだと云う村人もいる。何か理屈である。

墓堀している高堂国典に、工業化による日本復興を解く三船。「お爺さん、貴方にも判っているでしょう」。この村には電灯がないがいらないのか。いらないと高堂。いまのままが一番だ。立ち退きの補償金がどんな価値か判らない。「百姓はご先祖様の土地で農業していればいいんだ」。

そして何と三船は「村から老人は追い出せても老人から村は追いだせない」と正論を所長の清水に云うのだった。映画は(芸者の田代を救ったうえで)高堂を自殺させる。そして彼の評価を最後までしなかった。三船たちも何も語らなかった。高堂の遺骨抱いた出雲八重子さんは老け役の北林谷栄のよう。

工夫に孕まされて身投げして救われる娘に若山セツ子。彼女に岡惚れの多々良純は、結婚資金のためにやくざにダム爆破工作をさせられる。この終盤は盛り上がらない。三船がダイナマイト消してまわってダムが爆破されないからである。犯人を久慈はトロッコごと転落させているが、やり過ぎではないだろうか。多々良が死んじゃうのも気の毒だった。

三船・島崎と横恋慕の久慈の三角関係。お嬢さんの島崎はダムにやって来て、貴方の話は沈む村とかの話ばかり、心が離れてしまったと婚約を断る。三船は久慈と一緒になるだろうと匂わせて映画は終わる。この映画はダム開発に無邪気に賛成はしておらず、高堂の件と併せて、いろんなものを切り捨てたことに自覚的だったように思える。建設省の手前、反対はしませんが、というニュアンスがあった。ラストは若山の赤ん坊を祝福する三船と久慈。赤ん坊の未来で締めるのは「セメント工場の手紙」が思い浮かぶが、これではイロニーになるだろう。建設中のダム現場は(ネット情報だけだが)田瀬ダムの由。

(評価:★3)

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