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[コメント] 土砂降り(1957/日)

機関車のショットを繋いでクレジット。この映画、たいそうな機関車映画なのだ。劇中何度も出て来る。それはラストショットまで徹底的だ。本作の主な舞台は、南千住辺りの線路沿いで営まれる温泉マーク「ことぶき」。
ゑぎ

 冒頭は朝、泊りの客(男女)が帰る。続いて旅館の娘、岡田茉莉子桑野みゆきの出勤登校風景。長男(岡田の弟、桑野の兄)の田浦正巳はまだ布団の中。桑野と田浦がじゃれるような喧嘩をする。母親で女将さんは沢村貞子だ。女中は三谷幸子で、住み込みなのだろう、朝から夜までよく画面に出入りする目立つ役だ。家を出た岡田と桑野、踏切で止められ、これでは間に合わないと、鉄橋(跨線歩道橋)を渡る。汽車の煙が橋にかかる。

 岡田は役所勤め。同僚(席が前)の佐田啓二と付き合っている。隅田川の側のビアガーデンのシーン。岡田が来ると、佐田だけじゃなく、課長−稲川善一もいる。二人の仲を取り持つと云う。岡田は、家は固定客向けの旅館で、父親は脳溢血で亡くなっていると嘘をつく。その頃「ことぶき」の居間には山村聡が来ている。山村は岡田ら3人の父親だが、沢村は妾だ。田浦と桑野は家業を嫌がる科白を吐くが、でも楽しく行きましょうと田浦は達観。山村は帰り道、跨線橋の上で岡田と会う。機嫌のいい岡田。

 そして、高橋とよが登場する。線路脇の道。飲み屋の女将さん−水上令子から岡田の家のことを聞き、高橋はいったん「ことぶき」に入るが、すぐに帰ってしまう。もう察しがつくが、高橋は佐田の母親。息子の佐田に、課長に断りの電話を入れたと云う。また、佐田も煮え切らないキャラで、岡田の待つビアガーデンへ佐田が来たシーンでは、多分、2週間ぐらい経過しているのか、佐田には別の縁談の話が持ち上がっており、岡田の「どっちを取るの?」という問いに沈黙してしまう。こゝで、流しのギター弾きの方を見る佐田。これは違和感のある、思わせぶりな演出だと思った。

 というワケで、岡田は自分の環境や生活が嫌になってしまったのだろう、出奔してしまうのだ。ちょっと極端な選択かと思うが、そういうこともあるだろう。しかし、沢村が親戚(?)の日守新一の妻−野辺かほるに祈祷をしてもらう(人探しの占いをしてもらう)シーンを挿むのが、これも違和感のある演出だ。野辺だけが完全にコメディパートで浮いていると思う。

 2年後。岡田は神戸でホステスになっている。こゝに、やつれた佐田が来る。岡田は、佐田には妻子もあると知っている。店が終わったら会いたい。初めてなのに図々しい、という返しはいい。2人は温泉マークへ。岡田は佐田に押し倒される。抵抗するが、次第に身を任す。こうなることは分かっていた、と云う。もう離さない。佐田は、贈賄容疑で指名手配中なのだ。

 タイトルの「土砂降り」は、どこへも逃げることができなくなった岡田と佐田が、夜遅くに「ことぶき」に帰って来た時の状況を指している。この夜、クライマックスと云っていいだろう修羅場を現出するのだが、岡田と佐田の事柄だけでなく、桑野が自棄になって泥酔して帰ってくるというプロットが重なっているのがいい。さらに、待ちぼうけをくらった客の中村是好がいい仕事をする。だが、やはり、岡田が、佐田の眠る中二階の洋室に入って行く際の正面アップの後退移動ショットが全編の白眉だと私は思う。

 さて、エピローグでは、沢村と山村、兄妹だちの父母の関係に焦点が当たるのだが、2人の愛情の強さが強調される場面になっている。実は、沢村がもう少し艶(若々しさ)のあるキャラに仕立てられていた方が良かったと感じながら見た。ずっと弱々しい声で喋るディレクションが付けられており、強さが感じられ無いのだ。最初に書いたように、ラストは跨線橋や線路脇の道が映り、機関車が線路を走るショットで締められる。

(評価:★3)

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