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[コメント] 猟銃(1961/日)

雪の積もった林。ティルトダウンして雪道。犬が走って行く。佐分利信、褐色の上着を着、猟銃を持っている。場所は天城峠とナレーションがあったと思う。
ゑぎ

 上に記した冒頭シーンは、実は、ラストにも出てくる。本編エピローグと同じ日のシーンなのだ。明確な回想形式の見せ方をしないので、最初は分からなかったが、考えると、一人で猟をする佐分利が、過去を想起した物語、ということもできるのだ。

 雪山での猟に続く場面は、佐分利の邸内での岡田茉莉子と二人のシーン。場所は京都か。一見して岡田は佐分利の娘の役かと勘違いしたが、二人は年の離れた夫婦だ。岡田は、自分の娘時代のアルバムを持って来て佐分利に見せる。その中に、山本富士子の写真があり、従姉だと云う。続いて芦屋の山本の家に場面が変わる。女のお客さんが来ました、と女中。客は乙羽信子。娘(小学生ぐらい)を連れており、娘は、山本の夫との子で、自分には仕事があるから、子は置いて行く、育ててくれと言い残し、出て行ってしまう。もう言動も相貌も普通じゃない。なんという乙羽信子の狂気!やっぱりこれが上手いのだ。乙羽は、その後すぐに、交通事故で死んだという。事故については科白であるだけで、画面化されるワケではないので、自殺に近いものだったんじゃないかと推測させる。

 山本の夫は佐田啓二で医者。乙羽は佐田の結婚前の女で、元看護婦ということだが、外に子がいた(それを隠していた)佐田を許すことができない山本は、離婚し、乙羽の娘は自分が育てるという、いびつな選択をする。といったバックグラウンドを描いた上で、本作の本題、佐分利信と山本富士子との不倫劇がスタートするのだ。

 佐分利の家に初めて山本が訪問し、岡田から紹介された場面で既に、佐分利は、コレクションの李朝の壺を山本に見せながら「美しいものへの執着が愛です」と意味深なことを云う。すぐに二人は、岡田の留守中に会うようになり、蒲郡への泊りがけの旅行に出るが、神戸駅で偶然にも岡田に目撃され、岡田は蒲郡まで尾行する。しかし、岡田は、二人の不倫を誰にも云わず、見て見ぬふりをして、物語は一気に8年の歳月が流れる、という呆気に取られる展開を見せるのだ。

 山本が育てている乙羽の娘は、長じて鰐淵晴子になる。実年齢15歳の鰐淵だ。芝居は少々大仰だが、メッチャ可愛い。浜辺美波みたい。8年経っても佐分利と山本は続いているのだが、二人の逢瀬のシーンの演出もいよいよ絶好調になる。屋内の男女の不倫所作をアクション繋ぎ、それは見事なカット割りで見せるのだ。いや、本作の山本富士子も絶品で、彼女のバストショット単体の美しさにも陶然となる。勿論、岡田茉莉子だって綺麗だが、佐分利が山本に溺れてしまうことを私は全く疑問に思わないし、鰐淵がいくら可愛いと云っても、山本の匂い立つような美しさには全然かなわないのだ。

 そして、クライマックスと云っていい、岡田と山本の2つの対峙シーン(山本の部屋に李朝の壺があるのを岡田が目に留めてからの会話シーンと、体を壊した山本が、蒲郡ホテルで羽織っていたのと同じアザミの羽織を着ている場面)も、すこぶる興奮させられる。これらのシーンで、静かに流れている劇伴が、パーカッション中心のボレロのような曲であることも、画面を最大限に盛り上げる。そして、中盤からキーワードとして語られる、山本の中にいる「白い蛇」の何ともいたたまれない帰結!この奇妙な膝カックンな味わいも私は大好き。

#備忘でその他の配役等を記述します。

・佐田と山本の間に入り、調整する叔父さん役は柳永二郎

・岡田の友人の有閑マダムは南美江。二人が投資する証券会社の社員で田浦正巳。田浦は岡田の遊び相手でもある。

・佐分利の家の女中は石井富子だ。岡田が一人で食事する際に、前に座らせる。

・佐田の病院に岡田が入院したシーンで窓外に見える煙突から赤い煙が出ている。尚、本作でも、誰一人関西弁を喋らない。

・尚、当サイトでは、出演者に馬淵晴子の名前があるが、鰐淵晴子の間違いです。

(評価:★4)

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