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[コメント] 上海陸戦隊(1939/日)

上海市街の俯瞰を左へパン。共同租界の風景。昭和12年(1937年)7月7日、盧溝橋でシナ軍の不法発砲が元となって戦火が起こり、シナ側では上海の要所に陣地を作った、というようなナレーションが入る。日本軍の「不滅の偉業」が描かれた映画。
ゑぎ

 沢山の上海市民が走るショットを繋ぐ。この部分では、橋の大俯瞰ショットが凄い。8月9日、大山中尉虐殺事件。日本側は平和解決に努力したと云うナレーション。8月12日の葬儀。弾痕で穴の空いた自動車。弔辞を読むのは大日方伝だ。そのウエストショットからドリーで寄る。彼が主人公の中隊長。部下たちに、戦いになったら、弔い合戦だと云う。こゝから8月15日までの約4日間が描かれる映画だ。

 サイドカーに乗り移動する大日方。洋館へ入る。こゝが中隊本部。近くの学校をクレーン俯瞰から右へパン及びティルトすると、俯瞰で陣地を作る兵士たち。学校の講堂には、避難した民間人が集まる。中隊長はサイドカーで各陣地に移動して、小杉義男らへ指示を出す。この時点で、日本兵が狙撃されるロングショットがある。撃たせてください!と部下から懇願されても、いかん!と云う中隊長。まだ戦闘開始の命令が出ていないのだ。卑怯な敵と規律正しい日本軍との対比。学校の講堂から走る女性は英百合子。兵隊の静止も聞かずに土嚢と防護柵の向こうへ。脱げた草履。英はミルクを持って現れ倒れる。これが美談になる。従軍記者は丸山定夫だ。

 攻撃命令があり、戦闘が始まると、目を瞠るショット、俯瞰やロングでの凄い画が多数ある。全体に構図も非常に安定している。窓を使った屋外の敵の見せ方、中隊本部のシャンデリアが落ちるシーン、ビルの中で機銃を撃つ兵士の俯瞰ショットの迫力など。ただし、戦闘中の本部の場面で、大日方の後ろ姿で、引いたショットの会話が続く、といった演出には違和感を覚える。カットレベルで欠落しているのだろうか。

 また、中国兵の人格は一切描かれない。表情等が分からないぐらいに小さくしか映らないのだ。夜襲では、敵はビルの窓から撃ってくる。終盤になると、中国兵のモブの突撃場面はある。遠いところから手榴弾を投げる敵が延々と映される画面も私は凄い造型だと思った。あと、日本軍の戦車は、撮影で使われているのは一台だけではないだろうか。複数台同時に映っている画面はないと思った。

 勿論、プロパガンダ的な嫌らしさを感じる部分は横溢しているが、負傷しても手当を嫌がり、前線に復帰する兵士、死を厭わず突撃する兵士といった描写は常套としても、避難民の中にいる中国人の女性たちの描き方は興味深いと思った。この中に原節子椿澄枝がいる。彼女たちの会話は日本語字幕が付く。日本兵から大きな握り飯(パン?)をもらって喜ぶのは椿。原はくってかかり、兵隊にビンタされる。また、椿は戦場の妊婦のモチーフを導く役だ(『駅馬車』の日本での公開は、翌年なのだ)。「日本の兵隊さんはいい人達だわ」と云わせる展開にもっていく中、原節子一人が(若干の態度の軟化はあるものの)最後まで憮然としている、という扱いであることが面白い。それと、大日方の中隊は「不滅の偉業」を成し遂げた、という帰結なのだが(ナレーションの言葉)、私の心性の問題かも知れないが、そのスーサイド・アタックの描写は、当時の観客に厭戦感も持たせたのではないかと訝ってしまった。

#備忘でその他の配役等を記述。

・大日方の側近として北沢彪がずっと傍にいる。本部にいる清川荘司は副隊長か。

・激戦のシーンでは科白も聴き取りづらく、人の顔も判別しづらい。兵士で判別できたのは、佐伯秀男月田一郎佐山亮柳谷寛ぐらい。

・兵隊のためにご飯を作るのを手伝う派手な衣装の女性は音羽久米子

(評価:★3)

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