[コメント] 72時間(2002/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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個人的には、ティム・ロス と ガブリエル・バーンの共演というだけで、期待度満点。そんなキャスティングをする人ならば、そう間抜けなものを作るはずもない、という漠然とした信頼感かもしれない。そして十分その期待に応える最高の映画・・・になるはずだったんだが・・・たしかに詰めが甘かった、という感は残る。
それでも、これは志の高さが印象に残る佳作であるには違いない。たとえば、60年代の『ポイント・ブランク』のようなものに匹敵するだけのポテンシャルがある作品と思える。ドッキリするような斬新な画があるわけでもなく、時間軸を弄ぶでもなく、ただ丁寧なカットを積み重ねてゆく、ハッタリのない手法。まるで昔のTV映画のように露骨な暴力描写もなくベッドシーンでもハダカを見せず派手な音楽で観客を感情的に煽ることもない、ひたすら心理描写に力点を置いた非ハリウッド的で抑制の利いた演出には、しかし、観客をぐいぐいと引き込むだけの力がある。
ただ、たとえば本来の主役であるスコット・ウルフは力演だが決定力に欠け、これでは日本で無理矢理「ティム・ロス主演作品」ということにされてしまったのも致し方ない!? 相棒役カンディ・アレクサンダーの出番は散漫で、せっかくのキャラが立たず魅力を活かしきれていない。少なくともこのふたりは、ティム・ロス と ガブリエル・バーンに匹敵する印象を与えないといけないんじゃないだろうか。
また、意味の取りにくいディテールが少なからず残ったのは、おそらくは編集や試写でのプロセスの時間が十分ではなかったためかもしれない。出世街道も壁に当たり、周囲になかなか認められない悩みを持ちながら、その解決を期すべき未来を奪う不治の病の宣告を受けて、ついに「嘱託自殺」を決意する「若きエリート刑事」スコット・ウルフのストーリーには雄弁な台本も、一方の、自らの標的となったこの若い刑事の部屋に忍び込み、失敬して来たジャケットを着て、その彼女のネックレスまで拝借して自分の付き合っている女にプレゼントし、さらには刑事の捜査の真似事までしてみせる「刑事になれなかった元警官」ティム・ロスの哀しみにはほとんど言葉を与えない。
私立探偵と言いながらも実際にはしがない警備員でしかなく、つまらない侮辱に逆上して殺人を犯し、彼女からも愛想を尽かされ自滅への道へと追い込まれて行くティム・ロスの物語は、アパートの部屋の様子などのカットの積み重ねで示される。それをことさらこれ見よがしに強調することの無い演出は良しとしても、さりげなさすぎて一度観ただけでは関連性を見落としてしまいかねない気がする。ティム・ロスの演技はさすがだと思うが、その割にいいショットがない。
将来の「再評価」の際には、ぜひ編集にさらなる推敲を重ねたディレクターズカット版を出して欲しいものだ。
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