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[コメント] あるじ(1925/デンマーク)

カール・テオドール・ドライヤーの純粋な家庭劇。亭主関白で、かなりひねくれてもいる暴君お父さんビクトールと健気な奥さんイダ。子供は三人。心優しい娘カールと、下に小学生の弟と幼児の妹がいる。
ゑぎ

 家族の住居、アパートの外は雪が残っている。道路を滑って遊ぶ子供たち。弟はお父さんに怒られる。壁に向かって立たされる。手は後ろ。みんなお父さんには逆らえない。部屋の中心に立派なストーブがあり、常に湯を沸かしている。リンゴを焼いたりもする。このストーブの、画面としての求心力は高い。

 中盤、奥さんイダが病気療養で実家(母親の家)へ行くことになり、さらに、田舎へ行き静養することになる。本作は、こゝからが面白くなる。家政婦として住みこむことになったマッスは、おとうさんビクトールの乳母だった人なのだ。マッスとビクトールの対決は、早々にビクトールの完敗となり、前半に、ビクトールがイダや子供たちに強いたセリフ、所作が悉く逆転して反復されるのだ。

 さて、心を入れ替え、奥さんイダの帰宅を望むようになったビクトール。快復したイダが帰宅しても、マッスはキッチンに隠してビクトールに簡単には再会させない。再会するまで、引っ張る引っ張る。20分ぐらいかける。こゝの演出も上手いものだ。キッチンのクローゼットのような戸の中にイダが隠れ、上部の覗き窓から顔を出して覗くシーン。こゝで素早いティルトアップがある。マッスに叱られたビクトールが、壁に向かって立たされている時に、イダが部屋に入って来る。

 といった感じで、アパートの近所や、療養中のイダの場面もあるが、ほとんどアパート内が舞台となる。しかも前作『ミカエル』のような大邸宅ではない、狭い部屋が舞台だ。ただし、上で書いたティルトを含め、カメラは、なかなか縦横無尽によく見せる。屋内のドリー後退移動も2回ほどある。あと、フラッシュバックとして、海岸沿いの道で、車椅子を押すイダの俯瞰移動ショットが、一度挿入されるのが印象に残る。

 ドライヤーは、その処女作『裁判長』(1918)で既に、後年の傑作群を彷彿させる、ほとんど完璧と云って良い、厳しくも端正な画面造型を見せていたことを考えると、本作なんかは、肩の力を抜いて楽しんで作った、という感じが横溢している。そこが本作の魅力でもある。

(評価:★4)

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