[コメント] リトル・マーメイド(1989/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
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ディズニーと言えば、童話をアニメーションにすることで有名だが、実はそれにはかなりの断絶がある。実は1958年の『眠れる森の美女』以降、実に30年も童話を題材にすることはなかった。その間、フィルムメーカーとしてのディズニーは迷走していたのだが、原点回帰として作られた本作は公開年で8400万ドルを稼ぎ出し、ディズニーの再興の起爆剤となった。その意味ではディズニー映画を語る上で、とても重要な立ち位置にある作品である。
そして本作は、悪い意味でもう一つ重要な意味合いを映画界に作り出してしまった。即ち、「ディズニーが作るものが本物になってしまう」という悪循環である(ちなみに1933年に作られた「三匹の子ぶた」がその始まりとも言われるが、『シンデレラ』(1950)であれ『白雪姫』(1937)であれ、原典から大分雰囲気が変えられてしまっている)。
そして本作。アンデルセンの作り上げた悲恋話はミュージカルラブコメにされてしまった。そして現在に至る「人魚姫」のイメージはオリジナル版を全く顧慮されないディズニー版にされてしまっている。全く原作に敬意を持たない物語がメジャーにされるというのは、とても悲しい話でもある。
原作と本作の違いは、主人公である人魚姫の明るすぎる性格と、命を賭けてまで恋愛に突き進むという覚悟の無さとで言い表すことが出来よう。映画版アリエルの性格はとても陽性で、恋愛についても、友達が欲しいことの延長線上に過ぎない。だから何事も明るく笑って済ませてしまうし、その性格に合わせて物語もハッピーエンドに仕上げられる。そこには一瞬に一生を賭けるという覚悟はないし、それに失敗したら死ぬという恐怖もない。あるものは目先の楽しさのみ。いくら子ども向きとは言え、ここまで変えて良いものか?と言うレベルで明るいものに変えられている。
原作に対するリスペクトが感じられない作品を「駄作」と言うのだが、それで本作が面白くないのか?と言われるとそうでないところが問題。実際この作品、今観ても充分面白いのだ。スタンダードナンバーとなったミュージカルシーンのノリの良さは言うまでもなく、アニメーション的にも実に質が高く、映画の明るさによく合った緩急の付け方も素晴らしい。
だからこそ、複雑な思いにさせられるのが本作の特徴だろう。
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