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[コメント] 結婚式・結婚式(1963/日)

歌舞伎座か。男女が桟敷席で歌舞伎鑑賞をしている、かつ、家族らしき人物が近くにいる、という状況を見ると、お見合いシーンだと分かる。関東の良家の子女の見合いと云えば歌舞伎鑑賞、という流行があったのだ。
ゑぎ

 歌舞伎鑑賞をする女性は岩下志麻で、彼女の後ろには東野英治郎沢村貞子が座っている。腕時計を見る岩下の手を叩く東野。次に列車の中で、どんちゃん騒ぎをするサラリーマンたち。川津祐介がたしなめるが、云うことを聞かないので、じゃ俺もとトランペットを吹き始める。これはいくらなんでも非現実的な演出だろう。川津を止めたのは岡田茉莉子で川津の姉だ。2人は長谷駅で降りる。同じ列車に乗っていたのか岩下も降りて来て3人で歩く。岩下は見合いの後、鎌倉まで来たということだ。

 お父さん−伊志井寛の喜寿のお祝い。お母さんは田中絹代。田中は伊志井のことをお祖父さんと呼ぶので、最初は面食らった。長男が増田順司。その妻が丹阿弥谷津子で、子供(伊志井と田中の孫)がいるのだ。次男は北海道から来る予定。三男が川津。四男は予備校生の山本圭。娘は、長女の岡田と次女の榊ひろみ。岡田は駆け落ちして家を出て、久しぶりに帰ってきたようだが、こういう状況は徐々に明らかになっていく。また、岩下も岡田の妹なのかと思いながら見ていたのだが、岩下だけ親族ではなく、伊志井が会社を作る際に世話になった、今は亡き友人の娘だということが途中で分かる(東野と沢村は岩下のオジさんオバさん)。このような人物関係の謎の提示と解消が上手い作劇だ。この喜寿の会では、結局、北海道の次男が登場しないので、これが誰なのかの興味も後半まで引っ張られる。

 序盤までは、岩下から始まった映画なのだから彼女が圧倒的なヒロインとして描かれるのだろうと思っていたのだが、喜寿の会でも、結局一番目立っていたのは伊志井と云ってよく、続くシーケンスは、子供たちから、お祝いとして贈られた伊志井と田中の京都旅行の場面だ。もうこのあたりからは、クレジット順の通り、伊志井と田中の二人が主人公だと感じられて来る。また、2人は京都の旅館で真剣な夫婦喧嘩になるのだが、これが2人とも実に上手い。特に田中の、最初は余裕を持って反論していたのに、次第に完全に感情的になる変化の付け方なんて見事の一言だ。

 さて、老夫婦の場面に加えて、当然ながら、タイトルの意味を導く複数の若い男女の恋愛譚も盛り込まれる。その中では、岩下が川津の勤める通信社の事務所に来て、深刻な表情で見合い相手と結婚すべきか相談するシーンがいい。岩下も川津も素直過ぎる演技演出だが、微笑ましく可愛らしいシーンになっている。他のカップルは、駆け落ちしたので結婚式をあげていない岡田と田村高廣、そして、榊とその恋人のアメリカ人青年、と2組いるが、後半は、榊の国際結婚の可否をめぐるプロットになるのだ。こゝで、田中が、白人のことを、ゴム人形みたいで気持ち悪い、と発言するのは特筆すべきだろう。また、満を持して次男の佐田啓二が登場し、彼が皆の意見をまとめて、伊志井と田中を説得してしまうカッコいい役であることも明記しておく(ちょっとワザとらしいけれど)。

 あと、本作も撮影は厚田雄春で、小津っぽい正面バストショットの切り返しも要所で何度か使われるのだが、終盤の家屋の屋根を横移動するシーケンスショットについては何を置いても書いておきたい。夜、屋根の上でトランペットを吹く川津から左へパンと移動をして、2階の部屋の中で勉強する山本、隣の部屋の窓のところに座っている榊を見せ、黒画面を挟んで、1階の居間で会話する岡田と増田と丹阿弥、今度は右に移動して別の部屋の伊志井と田中を見せるのだ。つまり、5つぐらいの部屋を移動撮影で見せるショットになっている。各部屋は、それまでのシーンで使われていたのだが、このシーケンスショットで全体構造がよく分かるし、こんな凄いカメラワークを考慮して作られた装置だったのか、という美術部の仕事ぶりにも気づかされる素晴らしいショットだろう。

 尚、「結婚式」という文字列を2回続けるタイトルは、変なタイトル、と思っていたが、見てみると、実際は、3回続けるべき内容でした。と書くとネタバレになるかもしれないが、そんな展開は自明の映画だと私は思う。ラストは、佐田啓二がちょっと三枚目の扱いになる(でも、それがカッコいい)ということも書いておこう。

(評価:★4)

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