[コメント] 16歳の合衆国(2003/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
以前より楽しみにしていた本作。しかし、鑑賞時少々ウトウトしてしまい、何箇所か意識朦朧として鑑賞した為、きちんと把握しきれて居ない箇所もあり、そんな俺がレビューを書く資格があるかどうかは疑問だが、とりあえずの所のレビュー。
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「虫も殺しそうに無い」リーランド(ライアン・ゴスリング)は(知り合いで、とりあえず仲の良かった?)知的障害者の子供を殺し「あの時の事は覚えて居ない」といい、冷静に「皆理由を欲しがり、そして家族を非難したいのだろ?」と言い放つ姿に、どこか神戸の酒鬼薔薇聖斗事件を思い出した。中身は全く違えど、いくつかの共通点はあるように思える。特に「少年」という所に関して言えば。
少年が犯罪を犯せば、特に「成績が悪くないor成績の良い”優等生”」がこういった事件を起こせば、尚更「なぜ?」という周囲の問いかけは過熱する。そして、その責任は親に飛び火し、ありとあらゆる粗を探し始める。被害者の父親に「モンスター」と呼ばれる犯人少年のリーランド。
安直な問いかけが繰り返される「なぜ?」
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結局(俺は)最後までこの問いに対する解答は出て居ない気がする(全く出て居ないとも言わない)。しかし、この作品に於いて「reason(理由)」と言う物は特別な意味を持たない。むしろ「理由が無い/分からない」事に意味があるのだから。そして、ソレこそが本質なのだ。
作品は被害者家族にまで描写で踏み込んでいったが、あれは踏み込みすぎに思える。もっと言えば、ガールフレンドが薬物中毒と言う設定にも疑問を感じる。物語の構成は自白を断片的に映像化した、と言う感じなのだが、もっとストレートに分り易く描いても良かった気がする(そういえば、作品に「人生は、断片の総和よりも大きな物だ」と言う名台詞があるが、それに対する伏線なのだろうか?)。
この作品には全編貫いて哀しい雰囲気が流れている。冒頭10分間の一連のシークエンスと音楽演出は突出しており、素晴らしいと思った(リーランが包帯を巻いた左手を濡れないように伸ばしてシャワーを浴びているシーンとか)し、「この映画は傑作に違いない!」と思ったのだが、作品はその空気のまま進んでいく為、何かインパクトに欠け「哀しい」だけと言う印象を受けたのが残念。
『リリイ・シュシュのすべて』はイジメを扱った作品であるが、本質はイジメにあるのではないと、個人的に思う。あの作品には「哀しみ」が観客の心にグサグサと突き刺さってくる”痛み”があったが、この『16歳の合衆国(The United States of Leland)』には、それ程の「痛み」を感じ取れなかった事を残念に思う。
あの心に突き刺さってくるが言葉に言い表せない痛みと、似た種類の痛みこそ、リーランドの心に、全ての少年少女の心にある物だと思うのだが。
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この手の作品では、観客に与える物としては、こういった自白による「当時の再現」などによる「事実」ではなく、心に突き刺さる主人公の「こころ」だと思う。しかし、それは上手く表現できない。それが何か分からないが、見ている客の心にグサグサと突き刺さってくる、その痛みこそが、「なぜ?」に対する答えだと思う。
勿論、リーランドの言う「哀しみ」とは、もっと違った物なのかもしれないのだが。鋭すぎる感性が彼自身を壊した、というのではないと思うし。正直、コレをリーランドに台詞で喋らせたのは尚更観客を置いて行ってしまっている気がしないでもない(それ以前にこの作品に「reason」を求める事自体馬鹿げた行為だが)。
別に俺は理由が欲しかった訳ではない。心の痛みを見たかった。装っている裏にある弱さ、諸さ。そんな不安定な心をグサリグサリと抉るような作品を。
安易な結果――リーランドが恋人の家族の恋人(って変な書き方だな)に刺殺され「全て終わった」でオチる――に収束させたのは、正直作り手本人が「reason」から逃げているだけに思える。
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この問いに答えは出ない。だが、作り手は自分なりの結論を導き出すか、逆に全てを曖昧にさせてしまえばいいと思う。だが、あまりに断片的なキーワードを氾濫させて「哀しみに満ちているんだ。あの時の事は覚えて居ない」で終わらすのは少々卑怯に思える。
それなら中途半端なキーワードを排除し、徹底してリーランドの目に宿る「哀しみ」に焦点を当てたまま全てを曖昧にして終わるるか、もしくは何かしらの結論を示唆して終わるか、どちらかにすべきに思えた。
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ただ、この作品の雰囲気は中々出せる物じゃないと思うし、作り手側が(上に「逃げている」と記述したが)控え目な姿勢からこういった事件を見つめようと、真摯な姿勢で取り組んでいる様にを感じたので★1つおまけ追加。
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◇追記(10月30日)
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二度目の鑑賞にしてまた寝てしまった自分が情け無い。静か過ぎるという・・・のは言い訳ですね。ごめんなさい。
「愛する人を失うのは辛いけど、人生の断片の一部なのよ」
「でも大きすぎる断片だ」
「信じて。人生は、断片の総和よりも大きなものなのよ」
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