[コメント] 愛慾(1937/仏)
舞台は主に、オランジュ、カンヌ、パリの3カ所だが、いずれの場面でも、ロケ撮影の自然な光と人物の運動の見せ方、場面展開の粋な繋ぎには、終始陶然となる。
例えば、本編の第一場であり、オランジュの場面で度々出て来るカイユーの店の導入ショット−店名の入ったサンシェード(日よけテント)を仰角でパンするショットのセンス。ジャン・ギャバンがカンヌの夜間電信所でミレーユ・バランと出会う場面の、パーティションの隙間から見える手。海沿いの道を2人が歩く横移動から立ち止まって会話した後、いきなりダンスクラブで踊る2人に繋ぐカッティング(このシーンの最後、ダンスクラブを後にする2人のショットも見事な長回し)。パリで偶然再会する映画館のシーンでの階段と鏡の使い方。他にもパリの街を仰角パンニングしながらオランジュの町の屋根に繋ぐといった場面転換や、ギャバンの友人−ルネ・ルフェーヴルとバランが2人で歩く、川岸の(画面奥の対岸に城が見える)道の横移動なんかも素晴らしい。
あるいは、ギャバンとバランが2人部屋にいるところへ、部屋の持ち主(バランのパトロン)モロー氏が唐突に来る場面。動転しながらも複雑な表情をするバランを見せるディレクションのクレバーなこと。そして、終盤、ギャバンの店にやってきたバラン、そのシルエットのたたずまいから始まる濃密な修羅場の演出で沸点を迎えるのだ。窓越しにバランを見るギャバン。照明がグラスに反映するショットやギャバンがバランに近づくローアングルの非情さ。このクライマックスでも、2人の言動の振幅には複雑な納得性がある。それも、ギャバン以上に、バランの変化が明晰に演出されているところに凄みを感じる。グレミヨンの才を見る。
#原題は劇中の科白で何度も出てきて「色男」と訳されている。英題は『Lady Killer』。
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