[コメント] 父、帰る(2003/露)
映画を見終った人むけのレビューです。
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突然現れた放蕩父の帰還。全編に漲る緊張感が半端ない。この映画は画面も佳いが父と息子(x2)の心の描写が素晴らしい。魅せ方の勝利とも言えよう。
突然現れた父親は息子達が帰宅すると既に居て、しかも寝ていた。母親も何も言わないものだから、息子達は追及のタイミングを失なう。父親は何時になっても何も語らない。
この映画、よく考えると母親が妙だ。夫を待ち焦がれていたのか、帰ってきて欲しくなかったのか、恐れているのか、本当であればどれか、何か態度に出る筈で、この母親の描写は飽くまで映画的なカラクリであると思う。「まぁ夫婦、男女間には色々あるからな」と観客に文句を言わせず、父子間の緊張へ早々に放り込んで、母親は背景へと退潮してしまうのだ。
観客は最初弟への共感に誘導される。それは後半の布石にもなっている訳だが、少なくとも「父親経験者」であればその内に父親側の目線にも共感する筈だ。映画が進むにつれて、観客は弟とそして兄と、時には父親とのシンクロを行き来しながら「帰還の謎」の中での父子の対決を見守らなければならない。
私はこの父親を「暴君のような振る舞い」とは思わなかったが、しかし息子としてみれば、「愉快な父親」でも「羽振りのいい父親」でも「多弁な父親」でもないこの侵入者は、「いつ暴君に豹変するか知れない存在」であり、警戒するのは当然とも言える。一方、父親というのものは常に息子には「生きる道(術)」を示さなければと思っている。息子がだらしなかったり、他人に迷惑を掛けるような行動をすれば、父親というものは何とかそれを直そうとするものだし、息子のだらしなさの原因の一端は自分にある事を感じない訳には行かないのだ。ましてやここでは12年の不在が、息子達を悲しませ寂しがらせ、我儘にさせたのだと言われれば反論出来ないだろう。そこでどの様に息子に語るかはその父親次第だろうが、何か「語らねば」と思うのが父親道というものなのだ。だから私はこの父親を「暴君」と呼ぶのは少し可哀想だと思う。箱を回収する迄、息子達は返しても良かった。でも一緒に居たかったんだろ?
物語の結末は余りに悲しい。
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