[コメント] スウィングガールズ(2004/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
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音楽は、音を楽しむ事が目的なのだから、スウィングガールズの最終目標が、勝ち負けとは無縁な、誰でも出場できる音楽祭での演奏である事には不服は無い。それだからこそ、「スウィングする」事の快感に彼女たちが目覚めていく過程にドラマの焦点が合わされていない嫌いがあるのは、大いに不満。何も暑苦しい猛特訓を見せてくれとは思わないが、最初は音を出すという初歩の初歩さえ出来なかった彼女らが、それなりに旋律らしきものを奏で始めた先にある筈の、「スウィング」を発見する瞬間が印象的に描かれていないのが詰らない。眼鏡っ子の関口(本仮屋ユイカ)が、信号機から流れる“通りゃんせ”にジャズのリズムを見出す場面は好きだけど、それに続く、おばさんたちが布団を叩く音などもジャズのリズムとして聴いていくスウィングガールズの行進シーンは、映像そのものにリズム感が乏しく、「彼女たちはリズムを見つけました」という説明的な画面としか感じられない。
音楽する行為そのものの内から立ち上がってくるドラマは等閑にされ、竹中直人演じる小澤先生が成りゆきで指導役になったが実は演奏に関しては素人だとか、友子(上野樹里)が音楽祭出場の為の応募書類を出し忘れていたとか、その結果、例年よりも応募者多数により落選という事実を、会場に向かう電車の場面まで言い出せずにいるとか、そうした、「音楽する事」に直で関わってはいるが所詮は外的な偶発事に過ぎない、ワザとらしいピンチを置いていくだけの脚本にノルのは無理。電車内で真相を知ったメンバーたちが、見知らぬオッサンがラジオで聴くジャズに乗せられて演奏を始める場面なども、音を聞けば自然に体が動き出してしまう、というスウィングな場面ではあるけれど、ついさっきどん底に叩き落とされていた筈の人間があまりに早々に立ち直るインスタント感に萎える。
このインスタント感は、既に他のコメンテーターの方々が指摘されている、スーパーの前で演奏する友子たちを見て、脱落していたメンバーたちが易々と復帰・参加する場面のいい加減さにもよく表れている。小澤先生の指導はあっても無くてもよかったかのようだ。
また肝心の音楽祭の場面も、余計な事は考えず純粋に楽しめるものではなかった。先述した「楽しむ」「スウィングする」を際立たせる為の前振りだとはいえ、また、実際にこのテの演奏会は往々にして、当たり障りの無い取り澄ました内容で退屈を誘うとはいえ、クラシックの扱いが酷い。クラシックがどうこう以前に演奏の雰囲気が詰らないというのなら分かるが、客席の、かつてのバイト先のチーフ(大倉孝二)が、隣りの主任(木野花)に「分かります?」などという台詞を吐いているのには呆れる。演奏されているのは難解な現代音楽か何かなどではないのに、誰もが分かる楽しいものとしてジャズを描きたいが為の「クラシック=難解・退屈」という作為が見え見えの演出が何とも厭らしい。「バカでも一瞬でノリノリになれるジャズ!」といったような描き方は却ってジャズを愚弄しているようにも思える。観客たちがスウィングガールズの演奏を聴いてノリノリになる熱狂の仕方もやや誇張が過ぎていて薄気味悪い。
唯一、音楽する事の至福を垣間見せてくれたのは、良江(貫地谷しほり)とネズミの一件。最初に中古楽器から現れた場面では、メンバーたちが大騒ぎして、単なる嫌われ者としか描かれていなかったネズミが、高音が出せずに悩む良江のトランペットの先から顔を覗かせて彼女を驚かせ、その瞬間、求めていた音が出る。歓喜する良江が周りを見回すと、既にネズミは姿を消している、という、ネズミの天使性。良江は、次々に男に惚れては恋破れ、最後には楽器だけを愛すると宣言していたが、その楽器と上手くいかなかった時に現れたネズミ。恋破れた良江と、嫌われ者であるネズミの、密かな友情。ラストの演奏会場での、良江のトランペットの先に付けられたネズミのぬいぐるみには、仄かな感動を誘われた。こうした私的で特別なドラマを感じさせていたのは、結局この良江だけだったのではないか。最後に会場の最後尾から指揮しだした小澤先生のドラマ程度では、やはり弱い。
中古サックスと格闘する友子が川原で中村(平岡祐太)と邂逅する場面はよかった。最初、自分のサックスの音に合わせたピアノの音の元を探す友子が草叢の中を進む場面では、草叢の中で誰かが合奏しているのかと思いきや、草叢を抜けた先の川の向こう岸に中村がいる。この川が結構広くて、中村との間に距離感があるのがどこか詩的でいい。
松茸狩りのさなかに遭遇した猪との追いかけっこを、剥製と役者の静止、BGMには“この素晴らしい世界”で描写したり、ドラムス豊島由佳梨の突然のパンツに坂を転げ落ちる自転車など、被写体との絶妙な距離感で処理したコメディ・シーンは面白いので、このノリで全篇を演出できなかったのかと、そこが残念。
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