[コメント] 不射之射(1988/中国)
中島敦の「名人伝」をもとに、川本喜八郎が中国上海で製作した、25分の作品。橋爪功のナレーションで進行する、というか彼が弁士のような役割を担う。時は春秋時代。天下第一の弓の名人を目指す紀昌(キショウ)の約50年間の物語だ。
最初の師、飛衛(ヒエイ)からまず命じられるのは、瞬きをしない練習で、紀昌は女房の機織り機の下にもぐって、糸の動きを見続ける。人形と瞬き、という逆説的な課題が面白い。この課題に2年。次の虱を見続ける練習には3年かかる。蝶や蛍、雪のディゾルブで時間経過を表現する。ついに師の飛衛から、奥義を授かった紀昌は、師を討って初めて天下第一になる、と考え、嵐の日に師と対決する。このシーンの風の表現は凄い。師の矢が尽きた時点で、1本矢を残していた紀昌は、勝った、と思ったが、最後の矢を、師は口で受け止める、という荒唐無稽さだ。
二人目の師匠は峨眉山の老師甘蠅(カンヨウ)。これが、能天気な爺さんのキャラに見えるのだが、矢を使わずに鳥を射落とすという超能力者なのだ。お前のは、所詮、射の射。不射の射を知らん。と云う。こゝで、紀昌は9年間修行をし、都へ戻り、その後40年、天下第一の名人としてリスペクトされる、というお話だが、誰にも「不射の射」の技を見せたことは無く終わるのだ。紀昌は本当に、不射の射を会得したのか、という疑問、謎の提示については、本作では、ほとんど強調されていない。それ以上に、晩年は弓という名前、その使い道も忘れた、というエピソードが、真の名人の象徴として、アイロニカルなオチになった印象が強い。やはり、映画的なのは、最初の師、飛衛との決闘シーンだと思う。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (1 人) | [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。