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[コメント] 枯葉(1956/米)

アルドリッチは歪な人間を魅力的に描くのが巧い。その意味ではこの作品のようなものも、『特攻大作戦』などの作品群と同一線上にある。本作では、変わり者たちの関わり合いが、プロットを意外な形に転がしていくのが見事。
煽尼采

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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やや不自然なほどに、努めて明るく振舞うミリー(ジョーン・クロフォード)に対し、大家のリズ(ルース・ドネリー) はクールでシニカル。一見すると嫌な人物かと思えるリズだが、その達観したような沈着な人柄が、後になるほどミリーを支えるようになる。ファーストシーンでの、リズの「私は孤独の達人」という台詞が、一度目とは全く異なる温かみを帯びてもう一度ミリーに向けて発せられる場面には、その事が端的に示されている。

バート(クリフ・ロバートソン) のトラウマである、妻に贈り物を買って帰り、階段を上がっていったら部屋のドアが開いていて、妻と父が……、という出来事は、ホテルのシーンで再現される。だが階段を上がっていくのはミリーであり、その事で、彼女が夫バートのトラウマを、自らの痛みとして引き受けることを予感させる。そうして、部屋の前で歎き悲しむ夫を、彼女は抱きかかえるのだ。

孤独の中に引きこもり、開き直っているつもりでいたミリーだが、夫のために、孤独に耐えて彼を病院に入れることを決断する。入院シークェンスの中に、ミリーが自宅で、画面の奥と手前を行ったり来たりして、落ち着かない様子でいるのを捉えたショットが挿まれるが、このショットは、彼女が一度バートに別れを告げた後のシークェンスで挿入されていたショットと同じ構図、同じ動作だ。だが、このショットが意味する、孤独に悩まされるということの意味は、前後で全く異なったものとなっていると言えるだろう。

明るさの裏に影のあるヒロイン・ミリーには、文字通り全篇通してその姿に影が差している。しつこいほどに始終、影が差し続けているミリー。だがそのおかげで、ラストシーンの庭の明るさと広さのもたらす解放感がある。退院する夫を迎えに行ったミリーが、緊張した面持ちで、だがやはり努めて明るく振舞いながら、長々と喋り続ける場面は、彼女の必死な表情を、顔の見えないバートの肩越しに見せていく演出が、緊張感を煽る。そして、その効果を通じて、「この先がどうなるのか分からない」ことの緊張感という意味で、サスペンスとラブストーリーは相通じるものがあることを再確認させられる。本作は、上質のサスペンスであり、ラブストーリーだ。

(評価:★4)

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