[コメント] セルピコ(1973/米)
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良い作品とは思うのだ。だが、なんか普通に本作を楽しめないのも確か。特に今になってみると、本当に楽しむ事は難しくなってる自分がいる。
ハリウッドは何かと刑事物の映画が好きのようで、毎年定期的に出されるようだが、その始まりとなったのは1970年代になってから。1971年には傑作『ダーティハリー』(1971)と『フレンチ・コネクション』(1971)が世に出ているが、そこでの刑事の描かれ方は従来のものとは随分違ったものだった。この二作の主人公は決して潔癖な完全な存在ではないし、他の人間からも嫌われがちな存在だった。一方、彼らを嫌う側もやっぱり心に一物持っている存在が多かった。その中で彼らなりの正義感を貫く。と言うのが物語の骨子となっていた。
本作はそれを受けてか、更に深く、実際の警察組織に切り込んでいるのが特徴で、アクション性を極力抑えて一人の真面目な刑事の、組織の中での戦いを主軸に持って行っている。
主人公のセルピコは、流石に映画では格好良く撮られている。彼は本当に警官が好きだったのだろう。最初に子供の頃に見たというお巡りさんの姿があり、それを目指して警察官になったのに、警察の実情は腐敗だらけ。その中で自分なりの正義を貫こうとすれば、周りから嫌われてしまう。悪循環に陥り、どんどん立場を悪くしていく。
こう言う時に社会人の取る態度は概ね順応か、完全否定に走る事が多い。つまり、他の人と同じように賄賂を受け取る側に立つか、それとも辞表叩きつけて出て行くか。しかし彼はそれをやろうとはしなかった。それはこの作品では“警察を愛しているから”という説明になってしまうのだが、“精神的にタフな人間”とは言えるだろう。ただ、そのタフさというのは、多分に“鈍感さ”というものが無ければならない。パチーノ演じるセルピコは切れ者に見えてるけど、実際にこういう人間は、単にTPOをわきまえない人間としか見なされないものだ。
人を管理する立場になると、そう言う人間はとにかく腹が立ち、出来れば「出て行け」と言いたくなることもしばしばなのだが、実際の話、歴史を変えるような人物はこういう人達だったんだろう。
はっきり言ってしまうと、本作はその点では拒絶感を受ける作品である。だけど、それが本作のリアルさになっているのも確かな話。どれだけ同僚から嫌われ、空気の読めない奴と蔑まれても、自分のなすべき事を行う。これはこれで実に格好良い姿じゃないか。パチーノはこの役をほんと見事に演じていた。
それに本作の場合、製作された年代も顧慮に入れなければならない。ヒッピー文化とは、結局そう言う大人の流れに真っ向から対立するのが文化だったのだから。
それでちょっと調べてみたが、セルピコの実像は、ここまで格好良いものでは無かったようだ。彼がしたことは、あくまで賄賂を受け取らなかったため部署をたらい回しにされ、勤務中に何者から狙撃を受けたため、公聴会で証言人となったとのこと。順番がちょっと違ってるようだ。それで本作を撮影するに当たり、パチーノはセルピコ本人と数週間を過ごし、下調べ充分の状態で撮影に挑んだとのこと。
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