[コメント] 仕組まれた罠(1954/米)
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ルノアールと同じゾラ『獣人』が原作らしいが話はえらく違う。ジャン・ギャバンにあたるグレン・フォードから、例の遺伝で発狂というゾラ流の前時代的な性格(=獣人)は除かれている。だからThe Beast Withinという原題にならなかったのだろう。ギャバンはシモーヌ・シモンを殺して自分も死ぬが、本作でシモーヌに相当するグロリア・グレアムを殺すのは夫のブロデリック・クロフォードである。ルノアール作を知る者は特に終盤で、物語が転覆されているのを知ることになる。ラストで列車から飛び降りるギャバンに対して、グレン・フォードはまだ殺人を知らずに運転している。ここには批評があると取るべきだろう。
ハリウッドには年齢の不釣り合いな夫婦の悲喜劇という物語が多い。クロフォードは若妻へのボディタッチを拒まれて嫉妬から殺人を犯してしまい、そしてまた「殺人を思い出すの」とボディタッチを拒まれる。被害者へ書かせた手紙で脅しながら繋ぎ止め、最後には殺してしまう。ド壺と云えば余りにもド壺。この演技が充実していた。
感情の表出に癖のあるグロリア・グレアムは、神の預言のように語りグレン・フォードを従わせる。彼女の宅には中国の王と王妃と思しき画が額に入れて掲げられていて、何度も背景に映されるのはこの演出の補強だろうか(一方、朝鮮戦争帰りのフォードは東京土産だと着物をプレゼントしている)。
グレアムは富豪グランドン・ローデスとの浮気だけは伏せていて、追い込まれて16のとき誘惑されたと最も肝心なことを語るときにはもう、フォードは聞く耳持っていなかった。これが彼女の根源的な不幸、喋れない不幸を抱えていた不幸と思われる。最後の最後に、富豪との浮気は自分から仕掛けたと云って殺される、これはHuman Desireという原題に相応しい告白なのだが、しかしこれは自暴自棄の放言で夫にもう殺されたいがための嘘だろう。もちろん運命の女がいつ真実を話すか判ったものではないから、本当だと取ってもいいのだが、それでは浅はかすぎると思われる。その含みを紐解くべき映画と思った。
グレアムが序盤で語る、汽笛を聞きながら「ここに越してきた頃は耳障りだったわ。今は静かだと落ち着かない」という科白がいい。彼女を庇い偽証するフォードの、客車で誘惑されて突然彼のなかから発生する邪まもリアルなものがあった。ふたりのキスを告発するようにライトが照らす。凶行の現場は二度とも映されず、最後だけ映される。
運転手目線の電車は愉しい。汽笛鳴らされて線路から離れる集団がいた。ノンビリしたことだ。ドップラー効果の効いた鐘の音が印象的。
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