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[コメント] 明日を創る人々(1946/日)

冒頭に、東宝、東京急行電鐵、日本鋼管川崎工場のそれぞれの労働組合の協力について字幕が入る。見る前は、三監督(山本嘉次郎黒澤明関川秀雄)が分担したオムニバスなのかと思っていたのだが、全く分担の分からない一つの物語だった。
ゑぎ

 主人公は薄田研二で工場の事務員(工場の場面は日本鋼管川崎なのだろう)。その妻は竹久千恵子。家計が苦しい、という話から始まる。娘は二人おり、長女が中北千枝子で、東宝をモデルとする映画会社のスクリプターか。次女は立花満枝。日劇のような劇場で踊るダンサーだ(レビューガールのような踊り子たちの一人)。そして薄田の家の二階には、森雅之が居候しており、東都電鉄という鉄道会社で運転士をしているが、森は労組のリーダ的存在であり、現在闘争中という状況だ。

 やっぱり、私としては、中北が導く撮影所の場面が面白かった。藤田進高峰秀子が本人役で特出しており、藤田が、撮影が始まるので吸いかけの煙草をポケットにしまい、高峰にからかわれる、なんて場面がある。監督は北沢彪が演じている。照明係の松井さん−千葉一郎が、労組の場面でも発言する役だが、彼が劇中何度も、声が小さい、と云われるのは不思議な演出だと思った。

 立花の踊り子仲間で一番目立つのは谷間小百合。なぜか浜田百合子は一人だけ衣装が違い、一匹狼的存在だ。身体を壊した三谷幸子を解雇しようとする悪役が頭取という役職の志村喬で、ずっと関西弁を喋る。こゝでもダンサーたちで団結して会社へ抗議するという動きが描かれる。

 薄田の工場の場面では、上役(会社側)で出て来る清水将夫が、インテリっぽい嫌らしさを醸し出して実に上手いと思った。薄田は、自分が斬られるはずがないと会社を信じ、組合活動にうつつを抜かす娘や居候の森を懐疑的に見ているのだが、結局、馘首されてしまう。本作は薄田が中北や森の活動を目の当たりにし、労働運動に目覚めるというお話なのだ。

 クライマックスは終盤近く、東都電鉄の労働争議が決裂した後、森が皆の前でアジ演説し、続いて、応援で来ていた映画会社労組の中から中北が代表でスピーチする場面だろう。このシーンもそうだし、踊り子たちの場面でもそうなのだが、女性を泣かせる場面が多いのは気になった。薄田と志村から「女の癖に」という科白があるのもドキリとしたが、これはワザと批判的に使われている科白だと思った。

 メーデーのパレードで終わる映画だが、集会場面等含めて、映画の画面ということでは、もっとダイナミックなモブシーン演出があっても良かったと思う。黒澤はほとんど自分は関わっていない、と云っているようだが、確かにそうなのかも知れない。ただし、クジレットに名を連ねている責任はあるだろう。

(評価:★3)

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