コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 俗物図鑑(1982/日)

内藤誠桂千穂の個人出資によって作られた自主映画。多くのキャストがボランティアで参加しているらしい。画面はいかにも低予算ばればれのチープさで、前作『時の娘』とは比べ物にならない。
ゑぎ

 例えば良い引きの画は見当たらない。人物の顔アップが多いのは、背景を作り込む金が足りていなかったからだろうか。あるいは、ちゃんとした職業俳優でないと、切り返しも上手く撮ることができないのだろうか。画面造型で面白いと感じたのは、序盤の屋内の真俯瞰(天井裏から乱交パーティを覗く山本晋也のミタメ)と逆にカメラを真上に向けた仰角(天井が抜けて部屋に落ちた山本のミタメ)の演出ぐらいだ。

 ただし、画面の魅力は僅少だが、本作はナンセンス極まりないスクリプトとキャスティング及びこれら素人俳優の意外なほどの頑張りで見せる作品で、それはそれで、今見ても興味深いシーンが連続する出来栄えにはなっている。開巻は白いスーツ姿の南伸坊が「梁山泊プロダクション」という看板のあるマンションへ入って行く場面。これは評論家集団の事務所で、代表は接待評論家の平岡正明。冒頭時点での他の中心人物には、口臭評論家の巻上公一、贈答評論家の入江若葉、横領評論家−上杉清文、万引評論家−栗林由美子、火事評論家−伊藤幸子などがいる。南伸坊は盗聴評論家で、彼に導かれてプロットが進むといった部分もある美味しい役どころだが、全体を通じて一番目立っているのは、矢張り代表の平岡だろう。南は田中角栄の声帯模写をしているかのような喋り方で通すが、平岡は極めてクールなキャラ造型で一貫している。以降、各種の評論家がプロダクションに加わる過程と、世の良識派やマスコミとの対決、果ては日本政府との攻防にまで発展するといったアナーキーなプロット展開が描かれる。

 有名な職業俳優は入江若葉以外だと、反吐評論家の山城新伍とパーティ評論家の安岡力也ぐらいか。この3人では山城が路上の吐瀉物を鑑定するシーンがいい。指につけて臭いをかいで、ホワイトホースだと云い、舐めて吐いた人の仕事を分析する。有名どころとまではいかないけれど、皮膚病評論家の牧口元美と性病評論家の朝比奈順子も特別扱いと云っていいだろう。牧口の全身皮膚病のメイクはイマイチだが、設定上は最強レベルで、交接した相手は死んでしまうし、終盤は機動隊に一人で立ち向かう。また、朝比奈は本作中では一番のセクシー担当。結局脱ぐ場面がないのは寂しいが、特別感のあるソフトフォーカスのショットが与えられているのは彼女だけだ。

 素人俳優で驚くべき頑張りを見せるのが、隻眼の文芸評論家−四方田犬彦と、自殺評論家の大林宣彦で、思いの外爪あとを残したのが、テレビレポーターのインタビューに応える通行人役の手塚眞と云っていいと思う。大林の張り切りぶりは、予想通りとも云えるが、四方田と山城との掛け合いは見応えがあった。手塚のインタビューシーンは、長ゼリフを堂々とこなしており驚かされたが、このシーンは相手役のレポーター−吉沢由起も上手い。

#備忘でその他の配役などを記述します。

・入江の兄役で出版社の編集者は『素敵なダイナマイトスキャンダル』の末井昭。マスコミのフィクサーみたいな役で竹中労。これも良い役。

・刑事役は、当時「発見の会」の瓜生良彦(良介)と田口智郎(トモロヲ)。

・大林が発見した爆弾男は添田聡司。墜落評論家になる。テレビショウの司会は沢木慶端。墜落評論家に反論する大日本航空の飯田孝男

・新たな評論家発掘オーディションでの、キス評論家志望の女性は日野繭子。麻薬評論家として採用される海琳正道。巻上と彼はヒカシューのメンバ。

・平岡の妻で珠瑠美。息子は黒岩秀行。この人は団鬼六の子息か。

・映画評論家だと、オーディションシーンでアメリカ映画専門と云う石上三登志、南伸坊の妻−村川英、安岡の妻−北川れい子、機動隊の隊長で松田政男

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。