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[コメント] 白鷺(1958/日)

白鷺は、画家−川崎敬三からヒロインの山本富士子へ贈られる絵画の図柄だが、山本は全編白のイメージをまとう。さらに、エンディングの白い長襦袢にも白鷺があしらわれるが、彼女の周りには、赤や青や黄の原色も沢山散りばめられる、美しいカラー映画だ。
ゑぎ

 時代は明治40年代(冒頭に字幕が出る)。山本は元は浜町河岸の大きな料亭のお嬢さんだが、家が傾き、柳橋で女中から芸妓になる。当時の花柳界の風俗の再現が興味深いが、中でも、映画として意識的に活用されている小道具に電話がある。賀原夏子細川ちか子の2つの待合の間で何度も電話のやりとりが描かれるし、当時の街頭の公衆電話ボックス(「自働電話」と書かれている)も登場する。本作は、電話の映画、ということができるだろう。

 また、物の落下の場面が何度も繰り返されるのも、意識して描かれているのだろう。本郷の川崎の家での、庭の柿の木から柿がボタッと落ちるカット。山本の髪から黄色い櫛が落ちて割れる場面。山本の従兄−高松英郎が落とす匕首。ラスト近く、山本が佐野周二に襲われるシーンで、テーブルから落ちるオールドパーの瓶。

 俳優では、珍しく悪役を演じる佐野周二が嫌らしくていい。彼の眼鏡のレンズが二重(クリップオンタイプ)になっており、被せているレンズを上げて遠くを見る、という所作を繰り返すのが、憎たらしさを増幅している。もう一人の悪役、最初は「お嬢さんに女中なんか」と云っている、山本の家に恩義もある賀原夏子(待合「砂子」の女将)については、ちょっと曖昧な描き方か。もっと落差のある演出があって良かったんじゃなかろうか。

 あと、本作でも物干し台を舞台とする場面は特筆すべきと思う。山本と川崎が、待合「砂子」の二階の部屋から物干し台へ、佐野を避けて逃げるシーン。背景の暗雲はスクリーンプロセスなのか?しかし、この黒い雲の表現は見事なのだ。

 そして、本来最初に書くべきだと思うが、本作においても、勿論、山本富士子の美しさには惚れ惚れする。矢張り、この当時の日本映画における、最高の美人は彼女だという感慨を持ち続けながら見た。

#備忘でその他配役等を記述します。

・山本富士子の父親は見明凡太朗。継母?に小夜福子。山本の叔父さん(見明の弟)は上田吉二郎。その息子が高松英郎。

・川崎敬三の弟に入江洋佑。川崎の亡き師匠の家族で三宅邦子野添ひとみ

・佐野周二の妻は清川玉枝だが、ワンシーンのみの登場。

・山本を気遣う芸妓仲間で角梨枝子

・賀原の待合の女中には町田博子、細川ちか子の待合には村田知英子がいる。

・絵画の取引業者として信欣三

(評価:★4)

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