[コメント] 幸福(1934/露)
画面の特徴として、まず、斜面や小高い丘、橋と川、家屋や倉庫などの屋根だとか床下など、高低を活かしたシチュエーション、その仰角俯瞰の画面造型があげられるだろう。
ファーストカットが斜面にある木の塀のショット。塀の向こうを覗く男(配役紹介の訳で「クズ」と出る)。その右に女性が立っているが、これはクズの妻アンナ。彼女の右は上り坂。塀の上にはガラスの破片。「ツァーリの生活」と挿入字幕が出て、塀の向こうの様子が繋がれる。ツァーリは比喩だろう、裕福な爺さん(一応地主としておく)が、餅みたいな食物を食べているのだが、この餅が、勝手に口の中に入っていく特撮ショットだ(何もしないでも食べることができるという金持ちのメタファー)。
続く墓地の俯瞰も凄い画面。僧侶が「金を!」と催促する。本作は徹底して金銭と貧富の差をおちょくった映画だ。道を行く2人の聖職者が、橋の上に落ちていた財布をめぐって争い、ブレンバスターみたいに一人を川の中に投げ落とす。この財布は漁夫の利のように主人公のクズがせしめることになり、彼は墓地に戻って「父さん!これが幸福だ」と叫ぶ。これによってクズとアンナは一時少し裕福になるが、痩せ馬(馬体に斑点のような丸模様が描かれている)が云うことを聞かず、アンナが馬の代わりになって斜面を耕す。凄い斜め構図。強いアンナ。倒れたアンナの場面で、宮城でのツアーリの生活イメージが挿入される。この造型も凄い。仰角構図のディゾルブ繋ぎ。
しかし、拾った金を元手にした生活は長く続かず、ほどなく、搾取する一行がやってくる。警官や税務官吏や寄付を求める聖職者たち。結局彼らに全部持っていかれることになるのだ。この中に、教会関係者だと思うが、シースルーの服を来た2人の女性がおり、乳房も乳首も透けて丸見えという画面には驚いた。このあと、世をはかなんで自分の棺桶を作り始めるクズ。しかし、官憲は自死も認めてくれず、というのは当たり前かもしれないが、沢山の兵士が出現するというのが普通じゃない演出。その兵士たちは全員同じ面を被って同じ顔をしており、ビジュアル的には全然異なるが、私は『スター・ウォーズ』のストームトルーパーを想起した。いやはや、実にシュールな造型だ。
さて、後半の梗概はもう割愛するが、主人公のクズもさることながら、その妻アンナの造型がとても良いということは書いておきたい。馬の代わりに鍬を引くということでも分かるように、クズよりもかなりの大女だが、とてもチャーミングなのだ。馬みたいにバケツから水を飲む場面での寄ったショットの美しいこと。クズを追いかけ胸ぐらを掴んで反転させて、キスする動作のカッコいいこと。
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