コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 思ひ出(1927/米)

桃色の店』と並び称されるべきルビッチのメロドラマの傑作。ジャンルの本質を見事に射抜いており、身分違いの恋の悦びと切なさを描く映画は以降、全て本作に似てしまっているだろう。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







多用されたルリタニア(架空の王国)もの。子供時代の、歓迎の空砲に驚いて列車に駆け戻る王との再会から快活なコメディが連発される。山高帽の集団での脱帽は、学生の帽子になって全編通して活用される。

ハイデルベルグの宿屋でラモン・ノヴァロを勧誘する件以降、全てのノーマ・シアラーの快活な造形が素晴らしい。学生たちに肩車されてビールジョッキ運ぶ件が私的ベストショット(コマ落としも入っているだろうか)。塀越しに物投げあう再会も可愛く、お互いの名前の字幕アップも可愛い。白い花が咲き乱れる斜面の抱擁も印象的で、この斜面は再訪の昼間に再登場する。

王の病気、帰省の事情からふたりが沈黙すると、ボート漕ぎは黙ってボートをUターンさせる。映画が享楽から沈鬱へ移行する際の最後のコメディとしてこの件は秀逸だった。冒頭からサッカーや女の子たち、王子が窓から下の光景を見下ろして羨ましがる描写が反復されるのだが、この見下ろすアングルは、ラモン・ノヴァロが後継ぎのために帰省する馬車を見送るノーマ・シアラーの件で巧みに位置が反転されている。

「別々に幸せになるしかないの」という悲恋のラスト、ノーマ・シアラーは三度目の街の声「王ってのはいいものなんだろう」に送られて不本意な結婚に望む。ルビッチは保守的な人物だったのだろうが、本作の悲恋は、王政の人権蹂躙を告発する処まで純度が高められている。無音上映で鑑賞。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (0 人)投票はまだありません

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。