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[コメント] ロング・エンゲージメント(2004/仏=米)

撮影と美術の効果により、戦争を題材にしても独特の世界観が構築された。しかし、ジャン・ピエール・ジュネらしい独特のユーモアが失われてしまったストーリーは凡庸なラブストーリーでしかなく、非常に残念。
Keita

**ネタバレ注意**
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 ジャン・ピエール・ジュネは前作『アメリ』が世界的に成功したことにより、巨額の出資を受けることが可能となり、この『ロング・エンゲージメント』を製作することを果たした。製作費に恵まれたこの作品は、その利点を余すことなく利用している。

 ブルターニュ地方の自然にしても、20世紀初頭のパリの街並みにしても、そして戦地にしても、見事なまでのプロダクションデザイン。現在は美術館となっている旧オルセー駅が映像として再現されたことに僕は喜びを感じた。加えてセピア調の映像が独特の世界観を作り出し、多用されるブリュノ・デルボネル撮影による俯瞰ショットが戦地すら独特の世界に引き込んでしまう。撮影と美術に関しては徹底したこだわりが感じられる。僕が3個与えた星はすべてビジュアルに払われたものだ。

 しかし、その他の部分には星を与えることができない。

 こだわった映像世界観があるにも関わらず、ストーリーは実に凡庸だ。戦地で行方不明となった男を、女が必死で捜し求めるという恋愛物語。これを映像やオドレイ・トトゥ演じるヒロイン、マチルドの信じるおまじないといったユニークな設定で引っ張って行くはずが、どうもうまく機能しない。幸運なことに、撮影や美術の力により、灯台を舞台に繰り広げられる愛を育むふたりの回想など、印象的なシーンもいくつか存在する。しかし、点である良いシーンが、良いストーリーという線にはならない。次第に謎を解き明かしていくミステリー要素もあるが、そこに謎の答えを得る爽快感はない。

 この映画でジュネはストーリーを語ることに固執しすぎたのではないかと僕は思う。戦禍のエピックロマンを真面目に語ろうと頑なになりすぎた。そこで失われたのがジュネ特有のユーモアなのだ。思い返せば、『デリカテッセン』や『ロスト・チルドレン』はもちろんのこと、メルヘンチックな『アメリ』でもブラックユーモアが効果的に使われていた。しかし、今回は魅力的であるはずのユーモアが欠如している。「初めて愛し合った夜、マリクはマチルドの胸を触ったまま眠った」、「郵便配達が自転車で来るとき砂利を飛ばす」といった類のユーモアがもっと欲しかった。その類のユーモアこそ、ジュネらしさを感じさせる部分だと僕は思う。

 ジュネらしい部分とらしくない部分がミックスされた結果、曖昧な味が残った。正直、今回はジュネにがっかりさせられた。

(評価:★3)

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