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[コメント] プレデター(1987/米)

戦争の恐怖を描き切る
Bunge

現代人は人間の残虐性をあますことなく理解している。それこそホラー畑のクリエイターが「ニュースに負けそうになる」と嘆くほどに。

何の恨みもない赤の他人を殺せる。赤ん坊を暴行できる。寝たきり老人の爪を剥がすことが出来る。金のために戦争や魔女狩りを起こす事を理解しているが、身近な距離でそれが発生する事を想定して構えることは難しい。堕ちるかのごとく絶望を深めたところで同族を信じる気持ちは決して消えることはない。人を信じなければ人と触れられないし、人がいなければ幸福も存在しない。

人が人を全力で殺しにかかる様に対しリアリティーを感じさせるには兵士のバックボーンを綿密に描くだけでは全く不十分で、それでは消え去った日常への哀れみしか生むことはない。死体のはらわたを映したところで嫌悪感しかもたらさず、それはゴキブリを目にしたのと同種の感覚だ。敵をどんなに非情に見せたところで憤怒が表れるだけ。

一般的な映画ファンはドラマ性を求めるから敵の心理描写を欲する。敵を描けば敵が見える。作戦、思想、性格、容姿、年齢、体格、モラルが見える。恐怖は無知から生まれ、差別は恐怖から生まれる。だから情報を徹底的に啓蒙するか存在自体を消すかの二択でのみ差別問題解決の可能性が見えてくるのだ。それならば本作で敵が消えるのは当然の帰結といえる。観客を戦場に送り込むとすれば、敵を人に似て人でない生物として描くのが最良の選択である。怒りなくして高揚は無い。主人公サイドを軍人に設定し、報われること無きクライマックスとして構成されたのは必然的計算によるものだ。

何ら伝達機能としての役目を担ってなどいないし、そして研ぎ澄まされた一つの真実も無く、ただそこにある無垢な恐怖に没入することでのみ汚れなき恐怖と戦争と化すのだ。

2012/03/08

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)がちお[*] Orpheus ねこすけ[*]

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