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[コメント] 足摺岬(1954/日)

神田隆が杖で障子破るショットが強烈。いつも庭から見張っている特高というどす黒いイメージが凄い(含原作のネタバレ)。
寒山拾得

**ネタバレ注意**
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神田隆が杖で障子破るショットが強烈。いつも庭から見張っている特高というどす黒いイメージが凄い(含原作のネタバレ)。

暗い。原作もついでに読んだがさらに暗い。戦中版嘉村磯多とでも云うべき突き抜けた暗さがあり、比べれば映画はこれでも随分明るい。殿山泰司が風琴弾いているし。

映画は三つの短編をひとつに纏めている。原作との比較。

「足摺岬」の舞台は足摺岬のみであり、映画は印象深い遍路の来歴(戊辰戦争の被害者)やその後の路上死を略している。津島恵子にあたる宿の娘とは映画とは逆に結婚し、死別する。

「絵本」は東京の下宿生活で、新聞配達少年の警察の誤認リンチと自殺が語られるがひとり住まいで姉さんはいない。日中戦争で捕虜になった父の差別は小説でも映画でも語られて印象的。酷い話である。カリエス少年に絵本を送る逸話が採用されている。印象的な金魚鉢の件は映画のオリジナル。

「菊坂」も東京の下宿生活。主に母の死が語られる。皇太子誕生の祝賀と対照されるのを映画が略したのは予算不足のせいだろうか。特高に捕まる同居人の先生もここで登場する。同棲カップルとの関係は小説のほうが主人公の錯乱描写に優れている。

これらに描かれた不幸を映画は重層化して叩きつけている。新聞少年の自殺と母の死と信欣三の先生の逮捕と自らの結核による吐血という四重苦が一時に木村功に訪れる。あんまりにもやり過ぎだ(伊福部の音楽こそやり過ぎではないだろうか)。自殺の旅でさらに津島にも婚約したと振られてしまう。ラストの東京へ帰る木村の胸に去来するのは、お遍路さんに救われるというよりも、折り重なる余りの不幸のために虚脱状態のように見える。いやそれでも、救われたのはいいことだとは思うが。

名優度はやたら高い。なかでも内藤武敏のバンカラ学生と河原崎健三のカリエス少年、特高刑事の神田隆が素晴らしく、他も森川信赤木蘭子の大家夫婦、下元勉の印刷工等々適材適所。最後に持ってゆく御橋公殿山泰司のコンビも抜群。そして貧乏家屋再現の美術がいい。御茶ノ水駅のロケは愉しい。あんなオンボロ駅舎だったのだ。

(評価:★4)

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