[コメント] 二人の息子(1961/日)
宝田は丸の内あたりの海運会社の営業マン。部下に堺左千夫、同僚で藤木悠。サラリーマン根性を揶揄する「平穏無事、立身出世のことしか考えてない」などと云う科白が何度も出て来るサラリーマン映画でもある。
宝田の妹、藤山陽子は、同じ会社のエレベーターガール。藤山以外にあと3人の同僚がいる、というのは、今から考えると贅沢な時代だったのだと思う(当時としても特別な会社かも知れないが)。藤山は、重役候補の部長−小泉博に見初められることになる。
兄妹の父親の藤原釜足が、裁判所の臨時雇いを辞めた、と会社に云いに来たことで、プロットが駆動する。その夜の藤原の家。藤原の妻(宝田らの母親)は望月優子。画面奥に横臥した宝田の弟−加山雄三が登場する。脛毛が目立つというか、見せつけているのか。「養老院にでも」と云う宝田に、藤原は湯呑みを投げつける。宝田の妻−白川は、過去の経緯もあり、義父母の面倒を見るなんて、まっぴらゴメンという考えなので、宝田にも、父母を養うという選択は、容易ではない状況なのだ。
さて、この映画、編集や道具立ての見せ方で唸る部分が沢山あるのだが、少し例をあげよう。まずは煙草。加山は新生、宝田はピース、小泉はラッキーストライクを喫う。これを連打で見せる繋ぎがある。望月が新生を買うシーンでは、一箱40円(マッチ一箱は2円)と云う。調べたが、新生20本が40円の時、ピースは10本で45円だったようだ。
次に、家計のために白タクをやり始めた加山が、練馬で鶏を轢いて、仕方なく買って来た、というシーケンス。夕飯は鶏のスキヤキになり、「今度は牛を轢けばいい」と藤山が云う。「卵に付けたら美味いだろうな」と藤原。久しぶりの御馳走に一家団らん、というムードなのに、この後、家に一個だけあった卵を譲り合い、割ってしまって修羅場のような喧嘩になる。その次のシーンが、宝田の家で、ホットケーキを作る白川由美なのだが、カゴの中に卵10個ぐらい見せるショットを繋ぐのだ。
また、藤原の昔の友人で志村喬が出て来るが、藤原のいない席で。彼の息子がロクでもない、と云う場面がある。それに繋げて白タクを運転する加山のショットを繋ぐのにも唖然とする面白さがある。客を品川駅から熱海まで運んだ帰りか、原知佐子を品川まで乗せるシーンになる。この原のワンポイント投入も非常に効果的だ。
ショットレベルで云うと、宝田の住む団地の側の海辺のシーンなど、良いショットが多々あるが、雪の降る川沿いの道を歩く藤原が、小学校の校庭で、おしくらまんじゅうをする子供たちを見るショット、こゝは、筋にはからまないが、印象に残るショットだ。さらに、このすぐ後の、藤原が鉄道(線路)の土手に上るシーンが美しい夕景のシルエットで、こゝが、最も良いショットだと思った。
そして、クリスマスの夜の踏切の場面で、通過する列車の音で科白が隠蔽される(聞こえなくなる)演出があるが、これがラストでも宝田と加山で反復される、というのも絶妙だと思う。白川の最後のショットには拍子抜けしたが、彼女の考え方も、一本芯が通っており、自分のことを客観視もしているし、そういう意味で情のある人にも描かれていて、このあたりも懐の深い映画なのだ。ただ、それでも、白川の最後の表情は屈託が無さ過ぎるが。
#備忘でその他の配役などを記述。
・宝田の会社の購買部で、冷蔵庫を売る販売店?の男は大村千吉。
・藤山が小泉に見初められる前に付き合っていたのは、技士の田浦正巳。エレベーターガールの仲間3人は、丘照美、河美智子、笹るみ子。藤山らの詰所に来て化粧品などを売る闇屋のおばさんは、三田照子だ。
・加山が勤めていたタクシー会社社長は丘寵児。事務員に浜美枝。同僚の中山豊。
・藤原は王子公共職安に通っている。職安の近くの代書屋の主人に佐田豊。筆の遅い使用人(老人)は夏木順平。
・志村喬の妻は東郷晴子。藤原に千円渡して追い払おうとする。
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