[コメント] SHINOBI(2005/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
私は原作原理主義者ではないので、大幅なアレンジが加えられていてもあーだこーだと文句をつけることはしない。大前提として、原作に含まれるメッセージが揺らいでいない、作り手の主義主張が通っていればそれで良しとする。(かつ、面白ければ言うことはない)
「SHINOBI」はひどすぎた。"大胆にアレンジ"された脚本がメチャクチャだから。あの原作があってこんな脚本しか書けないのか、と思うと同時にこれをヨシとしたプロデューサーは更に罪深い。監督はいかにもPV出身ぽい画作りに徹してビジュアル重視。ハマれば悪くなかったと思う。
まず、登場人物とその忍法(画面で確認できたもの)を見てみよう。
■甲賀代表
甲賀弦之介 →常人ならざる動きで敵を一掃する(視界がスローモーションになっている描写アリ)
室賀豹馬 →?
筑摩小四郎 →鎖鎌をあやつる。速射砲のごとく手裏剣を投げる
如月左衛門 →他人の顔をコピーする
陽炎 →毒の息吹
(甲賀弾正)
■伊賀代表
朧 →相手を死に至らしめる「破幻の瞳」
薬師寺天膳 →不死
夜叉丸 →自在に伸び縮みする髪の毛
蓑念鬼 →?
蛍火 →蝶(毒蛾)をあやつる
(お幻)
いきなりツッコミどころ満載である。弾正とお幻を括弧書きにしたのは、代表メンバーに含まれていないが直接対決をしたため。代表が10人から5人に変更されているのは尺の都合もあるし、そのぶん一人一人を丁寧に描こうという意図であろう(が、すぐにその期待は蹴散らされる)。今作では筑摩小四郎が甲賀方にいるが、そんなに残したいキャラだったのか。放送コードに引っかかるせいか、異形の忍者連中がことごとくカットされている(地虫十兵衛、蝋斎、雨陣など)。彼らこそ映像化したら面白いのに…。それを期待してたのに。
以下、ツッコミどころ。
導入が弱すぎる → 原作では冒頭から風待将監と夜叉丸が人間離れした戦いを繰り広げ、その描写のなんと映画的なことか!映画では"甲賀ロミオと伊賀ジュリエット"の偶然の出会いから始まるが、う〜む。
主演二人がとにかく棒読みである。 → 仲間はそういう芸風だから諦めもつくが、オダギリは立ち位置がよくわからずただのキレキャラにも見え、命運もクソも感じさせず残念。
人別帖を隠里に持ち帰っている → すぐにお互いの敵が明かされるので、人別帖の取り合いという緊張感は成立しない。というか人別帖自体がもう映画に出てこない。
忍者は"得体の知れない存在"であるとして、南光坊天海の陰謀による忍者根絶やし計画 → この時代になっても、忍の連中は愚直にも主従を重んじるという設定があったような?深謀遠慮に長けた天海がそれを利用しないのはおかしい。
徳川軍を隠れ里に導いた黒幕は? → 薬師寺天膳がひそかに地図を差し出した。天膳は己の体質に嫌気がさしている死にたがりキャラ設定で、「忍びは影の存在、滅ぶしかない運命」みたいなことをホザく。ハァ?
隠れ里への攻撃中止命令 → 大砲や火矢でドカドカやる描写もどうかと思うけど、大御所からの攻撃中止命令が即座に伝達される。スゲー。
そもそも、途中から話の方向が変わってしまってないか? → 甲賀・伊賀の相容れぬ宿命の中での男女の悲劇を描いていたのではないのか。それが全然伝わってこないんだよなぁ。天膳と陽炎の最期のほうが(映画的に見ると)盛り上がってもってかれてるんで、余計に印象に残らない。朧が犠牲になって「265年続いた徳川の世をふたつの里は生き抜いたのであった」チャンチャンでいいのか!?
ところで、それぞれの忍者の散り様はというと…
■甲賀代表
甲賀弦之介 → 「フザケンナ!」と伊賀との戦いを拒否し続けるが、最後は自らの意思で朧に殺される。
室賀豹馬 → 蘇った天膳に気がつかずクビをはねられて死亡する。彼がどういう人物なのかさっぱりわからん。
筑摩小四郎 → 蛍火を殺され怒りに燃える朧に「破幻の瞳」で見つめられ、落馬して全身から血を噴出して死亡。
如月左衛門 → 夜叉丸に化けて朧を狙うが、寸前で懐刀を蛍火に見つかり殺される。何がしたかったの?
陽炎 → 不死の天膳にとどめをさされるも、天膳を道連れにする。
(甲賀弾正)→ お幻と刺し違えて死亡。
■伊賀代表
朧 → 唯一の生き残り。伊賀甲賀を救うため、大御所との取引で己の目を突いて潰す。
薬師寺天膳 → 「また死にきれなかったか…」「オレを殺せるか?」などという言葉とともに陽炎の毒を吸って死ぬ。意味不明…。
夜叉丸 → 小四郎との戦いの末、鎖鎌の餌食になって死亡。
蓑念鬼 → 獣のように登場し、陽炎を見つけると吸い込まれるように口づけをする。毒の息吹にやられて死亡。この間30秒くらい…。なにしに出てきたの?
蛍火 → 小四郎の手裏剣から朧を身を呈して守り絶命。
(お幻) → 弾正と刺し違えて死亡。
「甲賀忍法帖」の何が面白いかといえば、彼らがギリギリの線での戦いを繰り広げるからである。それでいて、ちょっとした油断、地の利、偶然などの要素がうまく絡み合って勝敗が決まっていく。「SHINOBI」はとにかくあっけない。ご覧のように、戦いが戦いとして成立していないのである。唯一の見せ場は小四郎と夜叉丸の対決ぐらい。それにしたって、力と力のぶつかりあいで、たまたま夜叉丸が敗れたぐらいの話である。原作にある魅力的な忍法はすべてカットし、アクションシーンの作りやすいものだけ残している。製作陣がサボったとしか思えない。
結局、何が言いたいかというと、どうせ原作無視して作るなら、同じくらい面白いの作ってみせてくれよ! てことです。
松竹110周年企画として製作されたらしいけど、「○○周年記念作品の大作=どうしようもない駄作」の法則発動である。
(自身のblogから転載。一部編集しました)
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