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[コメント] ステルス(2005/米)

 一種、これは今のアメリカの映画状況を本当に良く表した作品です。このままじゃジリ貧になるぞ。(久々のツッコミ満載)
甘崎庵

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







 そもそもこのタイプの作品は1980年代になってよく作られるようになった。『スター・ウォーズ』(1977)の成功により、SFものは意外に客が入ることが分かったので、それで次々とビッグバジェット作品が70年代後半になって投入されるようになった。だが結局それらは“所詮特撮”というレッテルから外れることなく、すぐさまB級化していった。1980年代は数多くのSF特撮作品が作られ、現在アメリカ映画界を負って立つ多くの監督が誕生したのだが、逆にこれはマイナーなSF映画を様々に工夫して苦労して作り上げた結果とも言える。マイナーであるならマイナーで良い。しかし、そこで誰も観たことの無いような奴を作ってやろうじゃないか!と言う意気込みがそこには感じられたものだ。だからこの当時のB級SF作品には大変面白いのが多い(同様に屑も多いが)。

 そして約20年が経過。CGの発達により、どんな映画であっても、少なからずコンピュータの手が入るようになり、SF作品と現実の作品との境目も曖昧になってきた。SFという素材が普遍的に用いられるようになったというのは一種歓迎すべき状況だろう。

 しかし、時折こんな勘違いをする作品が時折出てきてしまう。

 これに巨額な金を使ったという時点で、ハリウッドの方向性は大きく間違ってるぞ。

 これ、20年前だったらB級の馬鹿馬鹿しい作品として、一部の好事家なら楽しめる、と言うだけの作品だったはず。それを莫大な金を出して、くそ真面目に作ってしまうとは、失笑どころか、ハリウッドそのもののレベルの低下としか思えないような真似してくれる。

 肝心の戦闘機を美しく撮ると言う点に関しては充分とはいえ、それ以外がまるで駄目。どこかで観た映画のパクリの数々。冗長且つステロタイプな人間関係(マジ眠くなった)。意味もなく映し出されるタイの景色。わかりやすすぎる悪人面。カタルシスも説得力もないアクション。無茶苦茶な設定の数々。こんなのに金出すんだったら、もうちょっと人間をしっかり撮った作品に金つぎ込んで欲しいもんだ。

 一番腹が立ったのは、ここまでくだらない作品を延々とみせておいて、スタッフロールまで客を立たせない工夫だけはしっかりしていること。しかもあのオチは…カーペンターかよ!よもや最後の最後にB級そのもののパクリを持ってくるとは、語るに落ちたな。

 設定に関しては最早言うことの無いほどの馬鹿馬鹿しさだが、いくつか。大都市圏のビル一個破壊しておいて、死傷者数ゼロって、どこをどう見たらそうなるる?大体超音速で街中を飛んだらソニックブームで数百人が吹っ飛ばされるぞ。しかも他国の政府施設破壊しておいて、国際関係はどうなるんだ?「あれはテロを予防するためです」と言って黙らせるんだろうか?…この前のイラクと同じだな。後、ヘンリー機が山に激突するシーンでは、山肌に正面衝突してるが、あのスピードだと、その前に空気の壁にぶつかるから、あんな正面衝突はしない。超音速で飛んでるのにソニックブームが起きてるシーンと起きてないシーンがある。などなど。

 更にパクリに関してはあまりにもモロなのが『ショート・サーキット』(1986)、『ターミネーター』(1984)、『クリスティーン』(1983)、『ファイアーフォックス』(1982)が挙げられるが(他にも『トップガン』(1986)、『アイアン・イーグル』(1985)、『ブレードランナー』(1982)あたりも)、ここまでモロだと、監督の感性そのものが疑ぐってしまう。全部1980年代の作品から引っ張ってきたのは楽しいけど。

 ひょっとして本作は80年代B級SFに対してオマージュを捧げるための作品だったのか?…やっぱりバカを目指して作ったんだろう。

(評価:★2)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)HILO[*] 中世・日根野荘園[*] 水那岐[*]

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