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[コメント] ヴェニスの商人(2004/米=伊=ルクセンブルク=英)

美術や音楽には格を感じたけれど…(05.11.28@テアトル梅田)
movableinferno

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







シェイクスピアは一作も読んだことがないのですが「シェイクスピア作品の主題は普遍的なので時代を経ても色褪せない」というような言をよく耳にします。でも、この映画『ヴェニスの商人』を観た限りでは、登場人物の行動が腑に落ちなくてその度に感情的なつまづきがあり、物語の主題をヴィヴィッドに感じることができませんでした。それが原作の所為なのかこの映画の所為なのかわたし自身の所為なのかはわかりませんが。

まず、この映画におけるシャイロックの描かれ方では、観客は彼に同情的にならざるを得ないと思うのですが、それにしてもシャイロックがあそこまでアントーニオへの復讐に拘る訳がよくわからないので、どうもしっくりきません。また「宗教上の理由」からシャイロックに唾を吐きかけとことんまで蔑むアントーニオがどうしても魅力的には思えないので彼が窮地に陥ってもちっとも心が痛まず、しかし物語は彼の救済へと着地していくのでこれまたどうもしっくり来ない。かと言って、その「しっくりこないこと」こそを観客に味わわせたいという訳でもなさそうです。シャイロックというキャラクターを近代的に解釈することと、原作に忠実な物語を綴ることとの間に、観客、少なくともわたしという観客が引き裂かれてしまったように思えます。

そして「シャイロックの悲劇」に引っ張られてしまったのか、映画全体がどうも陰気で暗い。恋愛喜劇パートにも弾むような楽しさが感じられません。シリアスなトーンに過ぎるのでは?このトーンで演出されるとバッサーニオがただの放蕩バカにしか見えず愛すべき人物には思えません。バッサーニオの友人も野卑なバカにしか見えないし、シャイロックの娘ジェシカとロレンゾーの駆け落ちなんてまるで添え物。なにやら思わせぶりな表情を度々見せるジェシカの身振りも、そのような記号にしかなり得ていないと思います。(そもそもポーシャとネリッサがそれぞれの夫から指輪を奪う企みとその顛末が魅力的に思えないわたしはこの映画を観るのに向いていないのかもしれませんね…)

(そして身も蓋もないことを、え?シェイクスピアは一作も読んだことのないおまえが言うの?というツッコミを覚悟で言うと、彼の戯曲の真髄はやっぱり台詞なのかな、と思います。それも舞台で発せられて最も映えるもので、映画化するのは難しいのかな…と。)

残念ながらわたしはこの映画からほとんど楽しみを見出すことができませんでした。それが原作の所為なのかこの映画の所為なのかわたし自身の所為なのかはわかりませんが。

(評価:★2)

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